
コーポレート・ガバナンスの強化が企業にとって必須に
コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、企業が株主(出資者)、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会などのステークホルダーとの関係を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのことです。1980年代に米国で使われ始め、その後、世界に広がりました。日本で注目されるようになったのは企業の不祥事や経営悪化が続発した1990年代のことで、米国での先例を踏まえて、従来の取締役を監査役が監視するという仕組みに加え、「指名委員会等設置会社」などの新しい企業統治形態が導入されました。
その後、金融商品取引法で、有価証券報告書にコーポレート・ガバナンスの状況を記載することが義務づけられ、会社の機関の内容、内部統制システムの整備状況、リスク管理体制の整備状況、役員報酬の内容、監査報酬の内容などの統制環境にかかわる内容の開示が要請されるなど、コーポレート・ガバナンスを確保するための環境が整備されています。
コーポレート・ガバナンスを強化するためには、リスク管理体制、内部統制の仕組みを整えるとともに、十分な知識・知見を持ち合わせた社外取締役、社外監査役、会計監査人などによって監視する仕組みを整える必要があります。
また、経営にかかわる情報を十分に開示し、株主や機関投資家などと対話して、要望を聞いたり、意見を交換したりすることも求められます。
コンプライアンスに反する行為が中部電力で発覚
中部電力で今年1月、浜岡原子力発電所3号機・4号機を再稼働させるために行われていた原子力規制委員会による新規制基準適合性審査において、発電所の耐震基準等に影響する基準地震動策定に係る不適切事案が発覚しました。
中部電力は、事実関係および原因の調査、再発防止策の検討などを行うため独立した外部専門家のみで構成される調査委員会を設置し、調査を行っていましたが、その調査報告書が9月11日に公表されました。
本事案は、2度にわたる内部通報が行われていたにもかかわらず、適切に対応されていなかったため、コーポレート・ガバナンスの根幹たるコンプライアンスに反する行為として糾弾されています。中部電力は、本事案にかかわる浜岡原子力発電所3号機・4号機の設置変更許可申請などを取り下げ、不適切事案の再発防止策を策定するとともに、コンプライアンスに反する行為が行われていた時期に会長あるいは社長を務めていた3名を役職から解任し特別嘱託に就く人事を行いました。
定められたルールに従い、コンプライアンスを遵守することは、コーポレート・ガバナンスの基本です。中部電力の不適切事案では、担当者が安全性に問題がないと判断したのが発端でした。専門家としての判断は妥当だったかもしれませんが、問題がないことをルールに沿って証明する必要があり、ルールが納得できなかったのならルールの是正に取り組むべきだったと思われます。
中部電力は、すでに実施済み、あるいは今後実施を予定している不正行為の再発防止策の概要を公表しています。
その内容は概ね妥当と評価できますが、2019年に原子力部門に関する不祥事が発覚し、その後、様々な対応策を講じた関西電力と同様に、指名委員会等設置会社への移行や社外から会長を招聘するなどの対応が必要になる可能性もあると思われます。
なお、指名委員会等設置会社とは、取締役の選任・解任に関する議案を株主総会に提出する「指名委員会」、執行役や取締役の職務執行を監査する「監査委員会」、取締役等の報酬の内容や支給方針を決定する「報酬委員会」を設置して、業務の執行と監督を分離し、取締役は経営方針の決定と監督に専念し、業務の執行は取締役会で選任された執行役が行う経営統治形態で、エネルギー会社では、東京電力が2012年6月、関西電力が2020年6月、東京ガスが2021年6月に指名委員会等設置会社に移行しています。
極めて重要なコーポレート・ガバナンスに触れる不祥事への対応
石油業界では近年、2022年にENEOSホールディングスの会長グループCEOの性加害事案、2023年に同じくENEOSホールディングスの社長の性加害事案、2026年に軽油販売における大手販売事業者によるカルテル事案などが発覚しています。当該各社は事実関係を調査して速やかに公表するとともに、迅速に対処しましたので経営全体への影響は限定されましたが、対処を誤っていたら企業価値を大きく毀損した可能性もあったと思われます。
コーポレート・ガバナンスに触れる不祥事は企業の存続をも脅かしかねません。コーポレート・ガバナンスの強化は上場企業に限らず、すべての企業・事業者において、今後さらに重要性を増すと考えられます。