
燃料油需要の減少はSSの経営環境悪化につながりやすい
前回の道標で、ガソリンの国内需要が短期的には燃費が良いハイブリッド自動車(HEV)などの新車販売構成比の上昇によって、中長期的には新車販売の電動車への限定、蓄電池の性能・機能の向上とコストダウンを背景にしたプラグインハイブリッド自動車(PHEV)や電気自動車(BEV)の構成比の増加によって減少するとの見通しを説明させていただきました。
新車販売が2030年から電動車に限定され、新車販売に占めるBEVの構成比が27年5%、30年20%、35年35%、40年50%に上昇すると、ガソリンの国内需要は25~30年度に年率▲3%程度、31~35年度に年率▲5%程度、36~40年度に年率▲6~7%のペースで減少すると予想されます。
灯油、軽油、重油などの需要も省エネや電気・ガスへの燃料転換等により減少ペースが徐々に拡大する見通しです。
燃料油需要が減少すると石油販売事業者およびSSの経営環境は悪化しやすくなります。今回は、前記需要見通しを前提にSS数がどのように推移するかを考察させていただきます。
SS数の減少ペースは収益環境の良し悪しを反映
SS数は1994年度をピークに、石油販売事業者数は資源エネルギー庁から統計が公表されて以来、減少し続けています。2024年3月末時点のSS数は2万7414で1995年3月末比55%減少しています。
減少率は2000年代半ばから2010年代半ばは年率4%前後でしたが、2010年代後半以降は元売の集約、元売から系列外ルートへの安値供給の削減、元売の販売子会社及び有力販売事業者における採算販売の徹底などが奏功し、小売マージンが拡大して油販売事業の収益環境が改善したこともあり、年率2%程度に縮小しています。
SS数の減少ペースとガソリンマージンの間には相関性が見られ、ガソリンのマージンが縮小している局面でSS数の減少ペースが拡大し、マージンが拡大している局面で減少率が低くなる傾向が見られます。
ガソリンなど燃料油の国内需給見通し、元売の販売政策などを勘案すると、向こう2~3年程度の期間は、燃料油のマージンが崩れてSSの収益環境が悪化する可能性は低いと予想されます。しかし、燃料油需要の減少に伴って需給バランスの悪化が予想されるほか、コストコなど安売量販志向の強い新規事業者のシェアの拡大などによって燃料油の利ザヤが縮小すると、SS数の減少ペースは再び拡大すると見込まれます。
経営支援策が導入されるとSSの平均販売数量減少ペースが加速する
ただし、燃料油は経済活動並びに国民の生活にとって必要不可欠な必需品ですから、全国の需要家に確実に供給される体制を維持するために直営郵便局の数と同程度の2万カ所程度のSSを確保する必要があると考えられます。
このため、SSの密度が低くなった地域でSSの経営を支援する政策が導入され、SS数の減少ペースは緩やかになると予想されます。
この結果、燃料油の需要減少ペースが石油販売事業者およびSS数の減少ペースを上回るようになり、1販売事業者および1SS当たりのガソリンの平均販売数量は2030年前後から減少傾向に転じると予想されます。
平均販売数量が減少に転じると、SSの売上げは減少しやすくなります。また、燃料油の供給体制を維持するために政策的な支援が行われるようになる局面では、燃料油の販売事業で潤沢な利益を稼ぐことは難しくなると見込まれます。
燃料油販売を主体とする経営を続けていると、数年先には経営環境が厳しくなっていくと予想されるのです。
石油販売事業者は、燃料油需要の減少ペースが拡大する前に、コスト削減・効率化、油外事業の強化などといった対策を講じていく必要があると思われます。