
13~23年度GHG排出量は23%減少
わが国の温室効果ガス(GHG)排出量は、国立環境研究所・温室効果ガスインベントリオフィスの「日本の温室効果ガス排出量データ」によると、07年度から09年度にかけて、世界金融不況を背景にした景気後退によるエネルギー需要の減少、原子力利用率の上昇、省エネなどによって約11%減少し、12億4200トン(二酸化炭素量換算、以下同様)に減少した後、景気の回復、東日本大震災による被災や原子力政策の見直しなどの影響で原子力利用率が著しく低下し、火力発電用燃料の使用量が拡大した影響によって13年度には90年代以降で最も多い13億9500万トンに増加しました。
14年度以降は、原子力利用率の緩やかな回復、太陽光発電など再エネの導入拡大、省エネなどの効果によって減少傾向で推移し、13年度から23年度にかけての10年間に23・2%減少しています。
GHGを実質GDPで割って計算されるGHGのGDP原単位(百万円当たりトンCO2)は、13年度の2・62から23年度の1・92にかけて年率換算で約3%減少しています。
40年度のGHG削減目標を実現するためには 低・脱炭素化の加速が必要で巨額の追加コストを要する
今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画で40年度のエネルギー需給見通しが策定され、その中でGHG削減目標も示されました。
40年度の二酸化炭素排出量の部門別削減目標は、13年度比で産業▲61~▲57%程度、業務▲83~▲78%程度、家庭▲80~▲70%程度、運輸▲82%~▲64%程度、その他転換▲90~▲80%程度です。この目標を達成するためには、過去10年平均の2倍近いペースでGHGを削減していかなくてはいけません。
低・脱炭素化を推進するための対策として省エネの徹底、原子力の正常化や再エネの主力電源化などによる電源の低・脱炭素化、電化シフト、水素・合成メタン・合成燃料の活用、CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)・CDR(二酸化炭素除去)の実用化などが掲げられていますが、これらの中には実現が容易とは思えない技術革新や、コストが著しく高いため経済合理性に欠ける施策が少なくありません。
エネルギー需要を抑制したり、エネルギーシフトを進めたりするためにはエネルギー利用機器の更新が必要です。空調効率を上げるためにはビル・住宅を高断熱化するための建て替えや改修も必要です。機器・設備の耐用年数、更新・改修のためのコスト負担を考慮すると、これらを推し進めるための新たな規制・制度を早急に導入する必要があると思われます。大きな効果が期待できる施策はまだ打ち出されていませんが、巨額の追加コストを要します。
石油・LPガス事業者は供給安定性や利便性の高さなどをアピールして高効率機器への更新に取り組むべき
第7次エネルギー基本計画では、地政学リスクの拡大等が考慮され、安全性を大前提に「エネルギー安定供給を第一」とするとの方針が示されました。
化石燃料の中では天然ガスに優位性があるとされていますが、実際には、石油は資源各国との友好な関係の維持、資源開発への参加(自主開発原油の確保)、十分な量の備蓄などによって安定供給が確保されており供給不足に陥ったことはありません。LPガスは、供給量の8割を占める輸入の9割以上が、地政学リスクが低く、わが国と国交関係が良好で、供給余力が十分にあるアメリカ、カナダ、オーストラリアから調達されており、備蓄も行われていますので供給安定性は天然ガスより優れています。
また、石油・LPガスは、エネルギー密度が高く、低コストで大量に貯蔵・輸送できますから、可搬性・利便性に優れ、供給の柔軟性が高く、高効率機器に更新すれば環境性能も高められます。
石油・LPG業界は、このような強みをアピールするとともに、トランジションエネルギーとしてのポジションを確保すべく自動車メーカーや石油・LPG機器メーカーなどと共同で高効率機器への更新を図り、需要の確保に取り組むべきと思われます。
エネルギーの需要は、利用機器の導入・普及状況に左右されます。耐用年数を勘案すると、利用機器を販売したり更新したりできれば民生用で10年程度、業務用では10数年の将来需要を確保できます。低・脱炭素化に取り組むことは必要ですが、主力事業の収益を維持・拡大するための取り組みがより重要と思われます。