石油業界の収益環境悪化リスク高まる
2024.4.20
石油製品の需要減の要因は石油機器のシェア低下

 石油製品が現在利用されている分野の多くは、2度にわたるオイルショックを契機に政策的に石油から他のエネルギーへのシフトが促された時期があったこともあり、利便性やコストなどから、石油製品の優位性が高い用途が中心になっています。




 しかし、自動車、航空機、船舶、建設機械、農業機械、民生用・業務用の暖房・給湯・厨房機器などを除くと、近年、新しい石油利用機器が導入されるケースはまれで、これが燃料油の国内需要が減少傾向で推移している理由の一つになっています。 また、高経年化していたり新製品が投入されなかったりしている石油利用機器は、今後、他のエネルギー機器に置き換えられたり廃棄されたりして、石油製品の需要をさらに押し下げるリスクがあります。

 ガソリンや軽油の需要の増減は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンを搭載した自動車の利用台数の増減、新車と廃車されたり中古車輸出されたりした旧車との燃費差、景気、天候などによります。

 過去10年間でみると、乗用車の普及台数は年率0・7%増、トラックは同0・7%減で、新車に置き換わる比率は乗用車が年平均7%程度、トラック等が同6%程度でした。景気や天候の影響を平準化すると、ガソリンエンジンを搭載した自動車の新車と廃車との燃費差は平均30数%と計算されます。主に燃費の改善によってガソリンの需要は減少しているのです。

 一方、トラックやバスの燃料に用いられている軽油は、大型車におけるディーゼルエンジンの優位性が簡単に崩れるとは考えにくいため、国内需要が短期間で大きく減少する可能性は低いと思われます。

 灯油は、過去10年間に国内販売量が約30%減少していますが、灯油利用機器の販売状況や平均耐用年数からみて、2030年前後から減少ペースが加速する可能性が高いと予想されます。代表的な灯油利用機器である民生用石油機器の2014年から2023年にかけての10年間の国内販売台数は3905万台で、10年前(2004年~2013年)に比べて31%減少しており、その減少ペースが加速しているからです。製品別にみると、電気製品やガス機器との競合により、石油ストーブが同34%減の3372万台、石油温水給湯暖房機が同18%減の346万台と落ち込みが大きくなっています。

 重油も利用機器の更新時に他のエネルギー機器に転換された影響などにより国内需要は減少しています。


エネルギー政策が石油製品の需要 減少ペースを加速させる可能性も

 わが国では、現行の2021年に改定された総合エネルギー政策で、低・脱炭素化を図るために、徹底した省エネの推進、電化が可能な全分野における低・脱炭素化した電気への需要シフト、水素・アンモニア・合成燃料等の導入および利用の拡大などを推進する方針が示されましたが、まだ具体的な政策は導入されていません。
 エネルギー政策は今年改定される見通しですが、その中で石油機器と競合する分野で電気製品へのシフトを促す政策が導入されると、石油製品の需要減少ペースがさらに加速することになると考えられます。


収益悪化を避ける対策が急務

 石油業界の収益環境は、2016年から2023年にかけて概ね良好に推移していました。石油製品の国内需要は2000年代後半から減少傾向で推移していますが、①元売の集約、②石油精製設備の集約、③製品輸出の拡大、④石化製品への生産シフト、⑤元売各社の系列外販売ルートへの安値供給の削減、⑥元売の販売子会社等による採算販売の徹底などにより、燃料油の国内マージンが拡大したからです。

 ところが、近年、コストコなどの大型商業施設の併設店、カーケアやカーリースなどの油外事業に強みを持つ大手販売事業者、量販志向の強い販売事業者などが割安な価格でガソリンなどを量販し、周辺の事業者が対抗することで市況が悪化するケースが散見されるようになってきました。

 石油精製能力の余剰が拡大している影響も勘案されます。精製部門の収益性を高めるためには、稼働率を維持・向上することが必要なため、過剰供給に陥りやすくなるからです。

 石油連盟が公表している原油・石油製品供給統計週報(石連週報)によると、事故・装置の故障・定期修理等による稼働停止分を除いた常圧蒸留装置稼働能力と常圧蒸留装置設計能力の比率は、2014年~2023年の10年間の平均が91・1%だったのに対して、2020年86・2%、2021年86・2%、2022年91・5%、2023年89・4%と、2020年、2021年、2023年は製油所の能力をフルに活用できていませんでした。

 言い換えると、これらの年は製油所の稼働率が抑制されていたため過剰供給に陥りにくい状態だったのです。すなわち、過剰能力を抱えた局面では、事故や故障による停止が減少すると、過剰供給によってマージンが圧迫されやすくなるとも言えるのです。

 石油業界が取り組むべき課題は、①石油利用機器の更新に取り組んで燃料油需要の維持・確保に取り組むこと、②需要の減少に対応するため、石油精製設備の集約、石油製品輸出の拡大、石油化学製品への生産シフトなどに取り組んで需給バランスを整えること、③安値での卸取引や過当販売競争を抑制すること、④新しいサービスや事業に取り組んでいくことなどと考えられます。



北海道のガソリン価格予想
4月15日(月)から4月21日(日)まで
価格上昇
値戻し後に値下げも

04月20日付ヘッドライン

■広がる困惑、失望感 対量販構図変わらず 札幌市場
■昨年度、減少に転じ17件 危険物取扱者の違反行為
■3月決算組「まずまず」 収益環境の良化が支える
■消費、供給ともに減少 2022年度エネルギー需給実績
■42%が「月に1回以上」 GfKJapanが洗車で調査