政策の見直しが石油業界の収益環境悪化の引き金になる可能性がある
2024.2.20
良好に推移してきた収益環境が悪化するリスクが拡大

 石油業界の収益環境は、石油産業が全面自由化された2002年以降、良くなったり悪くなったりを繰り返していましたが、2016年以降、概ね良好に推移しています。燃料油の国内需要は減少傾向で推移してきましたが、石油製品のマージンが卸売・小売の両段階で拡大したからです。


 マージンが改善した大きな理由は、元売3・5社(東日本3社、西日本4社)体制への集約による石油精製・物流設備等の集約、エネルギー供給構造高度化法の2次告示に対応するための石油精製能力(主に設備廃棄を伴わない公称能力)の削減、石油製品輸出の拡大、石油化学製品への生産シフト、元売各社の系列外販売ルートへの安値供給の削減、元売各社の販売子会社等への採算販売徹底などと考えられます。

 これにより原油価格や為替レートの変動に伴う在庫評価やタイムラグの影響などを除くと、石油事業者の収益は概ね良好に推移してきました。

 ところが、良好に推移してきた収益環境が悪化するリスクが拡大してきました。石油製品事業の収益環境が今後どのように変化するかを予想する上で重要なポイントは、石油製品の需給と石油事業者の販売施策によると考えられます。

 石油産業が全面自由化された2002年から元売の集約がほぼ完結した2016年にかけての時期には、需給バランスを表す石油精製設備の稼働率の変化とマージンの動きがほぼ一致していました。これは需給が緩むとマージンを圧縮してでも生産・販売数量を確保しようとする動きが起きていたからと考えられます。

 2016年以降は、石油製品のマージンが需給バランスの変化にあまり左右されずに良好に推移してきましたが、その主な理由は元売各社が主導した採算販売徹底による効果によると考えられます。


需給バランスの確保が重要課題

 燃料油の国内需要の近年の動きは、2020年に新型コロナウイルス感染症の影響で前年比8・3%減の1億5135万klと大きく落ち込み、翌2021年には同2・0%増の1億5443万klとやや回復しましたが、2022年には同1・7%減の1億5175億kl、2023年(速報)は同3・2%減の1億4687万klと2年連続で減少しました。2023年の国内販売量は新型コロナウイルス感染症の影響が生じる前の2019年比11・1%減、国内需要がピークを記録した1996年比では40・5%減でした。

 需要が減少している主な理由は、石油利用機器の更新に伴う高効率化、電気や都市ガスへの需要シフト、冬季の平均気温上昇による暖房需要の減少、ビルや住宅の高気密・高断熱化の影響、省エネ・消費の節約意識の高まりなどと考えられます。

 必需分野で利用されるケースが多いため、石油製品の需要は価格変化の影響を受けにくいものの、石油製品の価格が上昇すると、平均購入量の削減や消費の節約などによって消費量は抑制されることがあります。石油製品の国内価格は、2022年1月から補助金の支給が始まった燃料油価格激変緩和対策事業によって、原油価格と為替レートの変動によるコスト変動分が補助金の増減によってほぼ相殺されていますので、2022年3月以降はほぼ横ばいで推移していますが、同事業の政策としての効果が薄れてきたことなどから、今年5月以降に補助金の削減・廃止などが実施される可能性があります。これが燃料油の需要を押し下げる可能性があります。

 供給面では、2022年10月にENEOSの根岸製油所の第1トッパー(原油処理能力日量12万バレル)が廃止され、2023年10月にENEOSの和歌山製油所(同12万7千5百バレル)が閉鎖されました。

2024年3月には出光興産グループの西部石油(同12万バレル)が石油製品の生産を終了する予定です。しかし、これらの能力削減では需要の減少を十分に補うことができず、石油精製設備の23年の全国平均稼働率は前年に比べて低下し、24年にはさらに低下すると予想されます。

 現時点では、元売各社が、需給の適正化と採算販売を続ける方針を掲げていますので、需給ギャップが多少拡大したとしても、すぐに販売競争が激化してマージンが崩れることはないと考えられますが、需給ギャップがさらに拡大すると、生産量を抑制しきれなくなって、廉売を伴う販売競争が再燃しやすくなります。


政策の見直しが石油需要に影響を及ぼす

 今年は、3年ぶりにエネルギー基本計画並びに総合エネルギー政策の見直しが予定されています。
 2021年に改訂された現行のエネルギー基本計画では、低・脱炭素化を図るために、徹底した省エネの推進、電化が可能な全分野における低・脱炭素化した電気への需要シフト、水素・アンモニア・合成燃料等の導入および利用の拡大などを進める方針が示されています。

 電化シフトを推進する施策はまだ導入されていません。例えば、新車の販売を2030年代に電動車に限定する計画が示されていますが、具体策や導入時期はまだ決まっていません。電気の低・脱炭素化が遅れているのがその一因と思われますが、電化シフトが本格的に促されると石油製品の需要減少ペースは確実に加速されます。エネルギー政策の見直しが石油業界の収益環境悪化の引き金になる可能性があるのです。

 需要の減少に見合った供給能力の削減を実現できるかどうかが、石油業界の今後の収益環境を左右するポイントの一つになると予想されますが、そのためには、設備廃棄・事業整理・撤退損失の計上など、痛みを伴う経営構造改革が必要になると考えられます。




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4月29日(月)から5月5日(日)まで
価格下降
仕切り価格値下げのため

04月30日付掲載予定

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