供給安定性・環境性に優れたLPガスを再評価すべき
2024.5.25
供給安定性が高まったLPガス

 LPガスは、現行のエネルギー政策では石油とほぼ同様の扱いになっています。その理由の一つは、かつて地政学リスクが高い中東諸国からの輸入依存度が高かったからと考えられます。ところがLPガスの需給構造は大きく変化しており、2010年代初頭まで80%を超えていた中東依存度は、シェールオイル・ガスの生産拡大に伴ってプロパンの生産量が拡大しているアメリカおよびカナダ、大規模LNGプロジェクトで随伴生産されるプロパンの生産量が増加しているオーストラリアからの輸入量が増加したため大幅に低下し、2023年のLPガスの国別輸入構成比はアメリカ65%、カナダ18%、オーストラリア11%、クウェート2%、カタール1%、UAE1%と、わが国と友好関係にある先進3カ国からの輸入比率が94%に達しています。このような状況は今後も相当期間続くと予想されます。

 しかもLPガスは、石油と同様に十分な量の備蓄が行われています。2024年4月時点の備蓄量は国家備蓄が139・4万トン(53日分)、民間備蓄が155・4万トン(56日分)の計109日分で、石油は237日分、対して、都市ガスの在庫量は、天然ガスを低コストで大量に貯蔵することが難しいため、パイプライン内にある流通在庫を含めても約2週間分しか確保されていません。LPガスは化石燃料の中でもっとも供給安定性が優れているのです。


エネルギー供給の「最後の砦」は過小評価

 石油とLPガス(液化石油ガス)は、大規模災害時に電力や都市ガスの供給が寸断された場合に、加熱、暖房、調理、発電用燃料などとして利用できるエネルギー供給の「最後の砦」としての役割を有すると評されています。事実、1995年に起きた阪神・淡路大震災、2011年に起きた東日本大震災、今年起きた能登半島地震など大規模な災害が起きた際に、被災地の一部で電力や都市ガスの供給が途絶えたことがありましたが、石油やLPガスを起因とする火災事故などはほとんど発生せず、震災の発生直後から被災地の生活や経済活動を支え続けていました。

 LPガスは、平時においてもガスの流量を計測して異常時にガスを自動的に遮断するマイコンメーターなどの安全機器の設置が義務付けられていることなどから、1990年代以降、ガス漏れ等による事故をほとんど起こしていません。

 LPガスは、プロパンやブタンなど比較的液化しやすいガスの総称で、常温で1Mパスカル以下の圧力をかけることで液化できるため、高圧ボンベやタンクに充填して安全に保管したり持ち運んだりすることができます。

パイプラインに拠らない輸送や貯蔵に要するコストは、極低温で液化することが必要な都市ガスの主成分である天然ガス(メタン、エタン)や水素などに比べると割安です。


LPガスは環境性にも優れる

 LPガスは化石燃料の中で二酸化炭素排出量が少ない環境性にも優れたエネルギーです。1GJ当たりの二酸化炭素排出係数は0・0597で、メタンやエタンを主成分とするLNGの0・0510と比較すると多いものの、原油の0・0697、A重油の0・0708より低くなっています。

 わが国では、都市ガスの主原料の天然ガスの大半が極低温で液化したLNGとして輸入されていますので、生産・輸送・貯蔵などの過程で排出される二酸化炭素を考慮すると、LPガスと都市ガスの温室効果ガスの排出量に大きな差はないと推定されます。

 プロパンやブタンは、メタンやエタンと同様の方法でカーボンオフセット化することができ、水素や二酸化炭素を原料に合成することも可能です。

 合成コストがかさむため、大量に脱炭素化することは容易ではありませんが、LPガスは低炭素化の過程においては有効な選択肢の一つであると考えられます。

 LPガスは、エネルギー産業に求められている重要課題であるS+3E(安全性、供給安定性、経済性、環境性)のすべてにおいて、化石燃料の中で相対的に優位にあると考えられます。


低炭素化に向けたトランジションにおいてLPガスの存在は重要

 わが国でガスの供給は、都市圏や大規模な工業地帯では都市ガスによるパイプライン供給、その他の地域ではLPガスのボンベやタンクローリーによる供給が主体で、都市ガスとLPガスが混在している地域もあります。需要密度が高くない地域にパイプライン網を整備することは経済的に合理性がありませんので、都市ガスとLPガスが共存するガス供給体制は今後も維持されると考えられます。

 エネルギーは、ほとんどすべての経済活動や暮らしにとって必要不可欠な基礎資材ですので、供給安定性、経済性、環境性の観点からみて、まだ脱炭素化のめどが立っていない電気へのシフトを推進するのは合理性が乏しく、エネルギー密度が低く、低コストで大量に輸送や貯蔵することが難しく、安全の確保にも難題を抱える水素を大量に導入させようとするのはさらに合理性に欠けると思われます。

 今年は、新しいエネルギー基本計画の策定、総合エネルギー政策の見直しが予定されていますが、脱炭素化の前段階としても重要な低炭素化のトランジションにおいて、LPガスを都市ガスと使い分けて上手に利活用していくことが適切な対応と思われます。




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7月29日(月)から8月4日(日)まで
変わらず
仕切りによっては値下げも

07月30日付掲載予定

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