石油事業者の未来に王道はない
2024.8.25
日本の石油産業の未来について

 日本の石油産業は今後どうなっていくのでしょうか?石油業界関係者からよくいただく質問です。

 多くの石油事業者が、取り組み内容に差異は見られるものの、事業構造の変革に取り組んでいます。重要な視点は、石油の優位性を認識した上で効率的かつ安定的に石油製品を供給し続けること、事業の変革に向けた投資を継続し、既存の非石油事業の収益を拡大するとともに、新たなビジネスを創出していくことでしょう。

 では、石油業界は、合成燃料の導入などによって既存のサプライチェーンを活用して事業を存続できるでしょうか?、それとも様々な製品やサービスを提供する「よろずや」のような新しい業態になっていくでしょうか?

 石油の国内需要は2030年前後までは年率2~3%程度の緩やかなペースで減少していくと見込まれます。石油の重要性がすぐに薄れることはなく、石油産業の収益性も短期間で著しく悪化することはないと思われますが、期間を5年単位で見ると2桁の需要減が予想されますし、今後のエネルギー政策次第で石油製品の需要減少ペースが加速する可能性がありますので、まずは販売量の減少に対応した取り組みが必要です。

 例えば、石油事業の収益性が悪化しないようにするためには、①石油利用機器の更新に取り組み石油需要の確保に努めること、②石油精製能力の削減及び分解・改質能力の適正化、石油製品輸出の拡大、石化製品への生産シフトなどに取り組んで需給バランスの適正化に努めること、③合成燃料、SAFなどカーボンフリー燃料の導入に取り組んで燃料需要全体の減少ペースを緩やかにするように努めること、④卸売・小売の両段階で採算販売を徹底し、適正なマージンの確保に努めること、⑤安定供給を確保しながら、事業所や組織の合理化・効率化に取り組むこと─などが求められます。これらの対策が不十分だと収益環境が悪化しやすくなると考えられます。


合成燃料やSAFだけでは  
     石油業界を救えない

 では、石油業界が取り組んでいる合成燃料やSAFによって業界は救われるでしょうか?、私は、その可能性は低いと考えています。

 合成燃料は、水素と二酸化炭素を化学的に合成して製造する石油と同じ炭化水素化合物で、ガソリン、灯油、軽油などと同様の燃料を製造することができます。

 温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーや原子力などによって生産されたカーボンフリー水素と、工場や発電所から排出されたり大気中から回収したりした二酸化炭素とを使って製造すれば、ライフサイクルにおいて大気中の二酸化炭素を増やすことがありませんので、カーボンニュートラルな燃料の一つです。

 航空燃料として利用されているSAFは、植物などバイオマス由来の原料や廃食油などを改質して製造するカーボンニュートラルな燃料です。

 合成燃料やSAFには、①カーボンフリー燃料の中では、水素、アンモニア、合成メタンなどに比べてエネルギー密度が高い、②既存の石油供給設備や利用機器をそのまま使えるので、物流及び利用の両面で経済性に優れる、③合成燃料は、カーボンフリーの水素と二酸化炭素さえ確保できれば、どこでも製造できるので、資源枯渇リスクがなく、地政学リスクや価格変動リスクを軽減できる、④ライフサイクルにおいて温室効果ガスを排出せず、硫黄や重金属なども含まないため、環境適合性に優れる─などのメリットがあります。

 しかし、石油由来の液体燃料に比べるとコストが著しく割高で、合成燃料の製造プロセスの大半は習熟化された既成技術ですので、将来的にみてもコストを下げられる余地が大きいとは思えません。自動車、家庭用、産業用などの燃料においてはコスト的にみて、一部配合して低炭素化するような使い方をするのが限界と思われます。

 合成燃料やSAFに全面的に置き換えられる可能性があるのは、代替エネルギーへのシフトが難しいため割高でも利用せざるを得ない航空燃料や船舶用燃料などの分野に限定されると考えられます。


事業の変革に王道はない

 石油販売事業者が、事業の変革に取り組むことは重要です。ただし、石油製品やエネルギーにかかわらない様々な事業を広範に展開する「よろずや」的な対応で成果を上げるのは難しいと私は考えています。

 石油販売業において取り組まれている新規事業の大半には既存事業者が存在しています。それらの事業で成功している店舗や事業者に対抗して、新規参入者が十分な収益を稼ぐのは簡単ではありません。多角化事業において石油販売事業者及びSSが優位性を発揮できるケースや相乗効果が見込める分野は限られているからです。

 これは他の成熟産業においても過去に取り組まれて、その成否が実証されている事実です。

 もちろん、石油販売事業者が成果を上げることができる新規事業はあると思われますが、販売事業者やSSによって結果は異なると考えられます。

 事業の変革には、必ず成功する王道はないと考えるのが妥当と思われます。


北海道のガソリン価格予想
9月15日(月)から9月21日(日)まで
価格上昇
値戻し

09月10日付ヘッドライン

■12市が改定見送る、ガソリンは多くが値上げ 道内35市燃料油納入価格
■増販への努力結実 夏商戦「意外に良かった」
■道内中小認定率2.42% 事業継続力強化計画
■影響あり漸減92.2% 道が原油・原材料価格高騰で調査
■「徐々」より「劇的」な拡販模索 中和石油セルフ簾舞