新規事業で成功するポイントは徹底した取り組み
2024.9.24
アップルのiPhone向け液晶パネルの需要を失った日本勢

アップル社は、長年、主力製品のスマートフォン「iPhone」に日本製の液晶ディスプレイ(LCD)を採用していましたが、以前から上位機種に採用していた有機ELディスプレイ(OLED)を次世代モデルから全製品に採用するとの方針を明らかにしました。


 現在、iPhone用にLCDを供給しているジャパンディスプレイとシャープはOLEDを量産していませんので、両社は需要の一部を失うことになると予想されます。

 自ら発光するOLEDはバックライトの透過で表示するLCDに比べて画面が美しいので、日本勢がiPhone向けの受注を再度獲得するためには、OLEDあるいはより高品質パネルを低コストで供給することが必要になると考えられます。


大きく変遷したディスプレイ市場で日本勢は劣勢に


 私がアナリストとして初めて世に出したレポートは、LCDを解説したものでした。

 新人研修期間中に作成したこのレポートは、専門書、学術論文、メーカーの公表資料などに基づいて、液晶の性質やLCDの仕組み、他のディスプレイとの違い、今後の展望などを簡単に解説した大学生の論文のような内容のものだったのですが、金融界では新鮮味があるとの上司の判断で公表されることになり、それが全国紙の編集委員の目に留まって新聞に要約が掲載され、その新聞社の経済誌からLCDの解説記事の執筆を依頼されました。

 これがきっかけになり、私は電気・精密・諸工業などを担当するテックチームに配属され、そこで最初に与えられた仕事の一つがディスプレイ市場の調査・分析でした。それ以降、私はディスプレイ市場の動向に注目し続けていました。

 1980年代半ばは、テレビ、ワープロ、パソコン用のディスプレイの主力はブラウン管で、電卓などに白黒表示の小型LCDが使われ始めた時期でしたが、私は、LCDは性能の向上と製造技術の進化によって用途を拡大し、将来的には、ブラウン管や同じフラットパネル構造の蛍光表示管、LED、プラズマディスプレイなどを凌いで普及すると予想しました。ほぼこの予想どおりLCDは1990年代後半にディスプレイの主流になりました。

 このLCDの市場で、シャープ、東芝、ソニー、日立などの日本企業が1990年代後半まで世界シェアの過半を占めていました。

 ところが、日本の各メーカーが業績不振などを理由に大規模投資を抑制した2000年代以降に、韓国や台湾などの企業が研究開発、並びに生産設備の新増設に多額の投資を継続した結果、日本勢を凌駕するようになりました。

 テレビやパソコンのディスプレイなどの大型液晶パネルで劣勢となった日本のLCDメーカーは、低消費電力と高精細の強みを生かせるスマートフォン用などの中小型パネルに注力するとともに、事業統合による経営合理化を図り、政府もこの取り組みを支援しました。

 これらの判断は、スマートフォンの急速な普及にも助けられて、経営成果につながった時期もありましたが、2010年代に韓国企業が、出光興産が製造・供給した有機ELを用いてOLEDを実用化・量産し、中小型パネルの市場を奪い、テレビ用などの大型パネルでもシェアを拡大してきたことで、日本のLCDメーカーの経営状態は再び悪化する可能性が高まっているのです。

 OLEDが量産化されるようになったケースでは、OLEDの方が画質が優れていることは明らかだったのですが、コストが高く大型化が難しいといった理由を挙げて、有機ELテレビを最初に市販したソニーを含め、日本のディスプレイメーカーのほとんどがOLEDの開発や量産化に消極的だったことは、見通しが甘かったように思われます。

 日本勢がかつて世界を席巻していた事業分野で他国の後塵を拝するようになったのはディスプレイに限りません。

 製品の性能やコストパフォーマンスで世界をリードしていた家電製品の多くも同様で、いまや複数の日本の家電メーカーが海外企業の傘下に収められています。



先行事業者がいる分野での新規事業展開には十分な事前調査・分析と徹底した取り組みが必要

 ビジネスの世界では、新しい取り組みに先んじた事業者が優位に立つケースがほとんどです。

 先に取り組んで先行者メリットによって成果を上げることができたケースはもちろんですが、最初は失敗したとしても努力と工夫を重ねることで後に成功につながるケースが少なくなく、仮に失敗を重ねて撤退したとしても、傷口が広がる前に撤退することができるからです。

 既存事業者や先行事業者を参考に取り組んだ場合には、失敗するリスクは小さいかもしれませんが、先行者メリットを得ることはできませんし、先行事業者などを真似て失敗した場合には何も得ることができません。

 主力事業が成熟している産業では、事業者の多くが多角化に取り組んでいますが、既存事業者や先行事業者がいる分野に多角化しようとしているケースが少なくありません。

 主力事業の強みを生かして相乗効果が見込めたり、立地が恵まれていたり、客層が共通していたり、さらには人財などの経営資源を活用できる分野であれば成功する可能性もありますが、そのような事業は限られています。

 もしも既存事業者がいる分野の新規事業に取り組むのであれば、ディスプレイの分野で台頭した韓国や台湾などの企業のように、競合する事業者を凌駕するためにどのような取り組みが必要かをしっかり分析して対策を練り、十分な先行投資を行い、速やかに徹底して取り組んでいく必要があると思われます。


北海道のガソリン価格予想
4月28日(月)から5月4日(日)まで
価格下降
値戻し後の下げ基調

04月30日付ヘッドライン

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