
わが国でも温暖化は確実に進行している
地球温暖化には懐疑的な見解を示す向きもありますが、気象庁が取りまとめている過去の気象データを見る限り、地域によって平均・最高・最低気温の変化率等に差はみられるものの、わが国では全地域で平均気温の上昇が確認されています。
札幌市の平均気温は、1901~1950年は7・2℃で10年間に0・1℃のペースで上昇、1951~2000年は平均8・3℃で同0・2℃のペースで上昇、2001~2024年は平均9・5℃で同0・5℃のペースで上昇しています。平年ベースの気温を算定する際に一般的に用いられる30年移動平均の1974年と2024年の変化を比較すると、平均気温は8・0℃から9・4℃へ1・4℃上昇していますが、最高気温は33・0℃から33・1℃とほぼ横ばいで、最低気温はマイナス17・5℃からマイナス12・5℃へ5・0℃上昇しており、最高気温と最低気温の上昇幅には差がみられます。
ちなみに、東京都の同期間の平均気温は15・1℃から16・6℃へ1・5℃上昇し、最高気温は35・4℃から36・9℃へ1・5℃上昇、最低気温はマイナス4・4℃からマイナス1・4℃へ3・0℃上昇しています。
なお、地球全体の平均気温と海水表層の平均水温が全世界的に上昇しているのは事実で、産業革命以降の平均気温・水温と温室効果ガスの排出積算量に強い相関性がみられますので、地球気候変動を抑止する対策として、世界全体で温室効果ガス排出量の削減に取り組むことは合理性があると考えられます。
地域的には、気温の変動を抑制する効果がある森林、草原、湖沼、河川、湿地、水田などの面積の縮小、舗装率の上昇や冷暖房の普及並びに利用の拡大など都市化が温暖化の原因になっていると推察されますので、これらも十分に考慮する必要があると思われます。
ちなみに平均気温が1℃上昇すると、わが国では、経験則から、夏季の冷房需要が2%程度押し上げられ、冬季の暖房需要が1~2%程度抑制されることがわかっています。
燃料油内需の減少ペースは加速し製品によって増減率は異なる見通し
政府の経済動向・人口動態等の見通し、温暖化およびその抑止策等による影響を考慮して燃料油の中長期国内需要見通しを策定したところ、燃料油(ナフサを除き、SAF、合成燃料、バイオマス燃料を内数として含む)の国内需要は2024~2030年度に年率2~3%、2031~2040年度に年率3~5%のペースで減少し、2040年度の国内需要は2023年実績の1億840万klの6割程度の6010万klに減少する見通しです。
低・脱炭素化に向けた主な具体策として、①燃料油利用機器の高効率化、②低・脱炭素化された電気へのシフト、③温室効果ガス(GHG)排出原単位が低いガスへのシフトなどを織り込んでいます。
また、ガソリンと軽油の需要に大きな影響を及ぼす自動車の動向に関しては、自動車保有台数が30年まで微増ないし横ばい、30年以降は人口・世帯数の減少や運転免許保有者数の減少を反映して緩やかに減少(30~40年に年率0・3%減)する中、新車販売を電動車に限定する政策が30年代に導入されることを想定しています。
2023年度~2040年度の製品別の増減率は、ガソリン、灯油、A重油が約60%減、C重油が約70%減、軽油が約25%減、ジェット燃料油が10%増の見通しで、製品間で大きな差が生じると予想されます。
石油業界に必要な需要減を前提にした将来戦略
なお、現在、国策として導入が推進されている水素、アンモニアは、製鉄、発電用の分野で導入および利用が推進されていますが、経済性の低さ、取り扱いの不便さなどから、機器だけでなく、燃料の価格差を補う補助金が多額に支給され続けない限り、燃料油の需要を左右するようにはならないと予想されます。
SAF、合成燃料、バイオマス燃料は、水素に比べて、貯蔵性、輸送性、安全性に優れ、既存の設備・機器を利用できますので、導入支援策次第では、ある程度の構成比を占めるようになる可能性がありますが、コストの高さ、供給量の制約などを考慮すると、燃料油の需要縮小を補うような効果は期待できません。
石油業界は需要の減少を前提にした将来戦略を講じる必要があると考えらえます。