エネルギー供給構造高度化法の新・判断基準について 
2015.12.7
明らかになった石油精製業における高度化法の新・基準

 6月30日に開催された総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会、石油・天然ガス小委員会合同会合において、石油精製設備に関わるエネルギー供給構造高度化法の新たな判断基準(告示)案が公表されました。

 新・基準は、エネルギー供給構造高度化法が施行された2010年に施行された旧・基準が今年3月末に期限を迎えたため、石油業界の過剰精製能力の解消、収益改善などを目的に内容を見直して策定されたものです。


 同案では、石油業界を取り巻く事業環境において、原油調達、国内の石油需要、各社の成長戦略などが旧・判断基準施行時点から大きく変化しており、こうした変化に柔軟に対応しつつ、「原油等の有効利用」を促進していくため、新たな判断基準を設定することで、石油各社に、常圧蒸留装置の能力削減あるいは「残油処理装置」の装備率(常圧蒸留装置の能力に対する残油処理装置の能力の比率)の引き上げを求めるとの見解が示されました。旧・基準からの見直しのポイントは以下のとおりです。

1.装備率の定義の変更

 「残油処理装置」とは、「残存物」になりうる「常圧蒸留残油」又は「減圧蒸留残油」を処理し、これら「残油」から白油を生産することに貢献する装置を指し、旧・判断基準で定義した「重質油分解装置」(残油流動接触分解装置(RFCC)、熱分解装置(コーカー等)、残油水素化分解装置(H―OIL))に、重油直接脱硫装置(直脱)、流動接触分解装置(FCC)、溶剤脱れき装置(SDA)を加える。

2.目標への対応方法

 分子対応(残油処理装置の新設・増設)…「柔軟な生産体制」(石油製品・石化製品の生産切替え体制など)の構築による、「原油等の有効利用」の実質的な改善効果及び石油の安定供給への配慮を要件として追加。
 分母対応(常圧蒸留装置の削減)…公称能力の削減も認めるなど、製油所運営の現状に即した見直しを追加。
 連携による対応…連携等による設備能力の融通措置を認め、事業再編等を進める場合、必要に応じて本則に「準ずる措置」を講ずることを認めるなど、企業が連携に取り組む場合の措置を導入。

3.装備率の改善目標・取組期間・事業再編方針の提出・フォローアップ

 2014年3月末時点で45%程度の我が国石油精製業全体の残油処理装置の装備率を2017年3月末に50%程度まで向上させることを目指す。個々の企業の目標改善率は、計画提出時の装備率が45%未満の場合13%以上、45%以上55%未満の場合11%以上、55%以上の場合9%以上とする。各社がすべて常圧蒸留装置の能力削減で対応した場合、日本全体としては現在の約395万BDの精製能力が約40万BDに削減される。
 石油精製業者は、目標達成のための具体的計画において、設備最適化の基盤となる事業再編の方針も併せて示し、必要に応じて見直しを行いつつ、その取組状況を目標達成状況とともに定期的に経済産業大臣に報告するものとする。

基準の合理性、責任の所在、誰のための法制度かなど疑問

 事業会社にとって、設備の新設・増設・改造・廃棄などは極めて重要な経営判断です。新・判断基準の数値目標を達成するためには、常圧蒸留装置の廃止、あるいは、分解・改質装置などの増強が必要になり、収支の圧迫要因が生じることになります。事業再編はさらに大きな困難を伴います。そして、このような対応によって、収益環境が改善するかどうか、収支が改善するかどうかはわかりません。

 旧・基準は、JX日鉱日石エネルギー、出光興産、昭和シェル石油の3社が、制度施行前に独自に策定・公表済みの石油精製部門の合理化計画が基準となっていましたので、少なくともこの3社にとって合理性は確保されていたと考えられます。しかし、現状では、どの石油会社も設備対応を含む精製部門の合理化計画を公表していません。よって、新・基準に合理性があるかどうか疑問です。

 事業会社の経営陣は、ステークホルダーの信託を受けて経営を行っていますが、仮に新・基準を達成したにも関わらず収益性が改善しなかった場合、だれが責任を負わされるのでしょうか?安定供給を確保するために必要な供給能力を維持することは国益にかなうと考えられますが、設備廃棄を求めるこの法制度は誰のために施行されるのでしょうか?供給能力が過少になってしまった場合、需給がひっ迫して石油製品の価格が高騰する可能性があります。このような状況は石油会社にとって好ましいかもしれませんが、需要家にとって望ましい状況とは思えません。

 公益事業のように規制・制度によって一定の利益が保証されるわけではない産業の民間事業者に対して、法制度によって強制的に設備対応を求めたり、事業再編を促したりすることに私は疑問を呈せざるを得ません。



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08月05日付掲載予定

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