
改訂されたエネルギー基本計画
エネルギー基本計画が4月に改訂されました。同計画の中で、石油とLPガスは、東日本大震災によって大規模災害時における供給信頼性の高さが再認識されたことなどを反映して『災害時には、エネルギー供給の「最後の砦」になるため、供給網の一層の強靱化を推進する』と示されましたが、石油製品及びLPガス利用を促す政策は打ち出されていません。
一方、都市ガスは、近年起きた阪神淡路、新潟中越、中越沖、東日本の大規模地震の際にいずれも普及に最も長い期間を要したにもかかわらず、天然ガスへの燃料転換を促す諸政策は維持され、ガス・コージェネレーションシステムなどガス利用機器の導入及び利用の拡大がさらに推進されるようになりました。
電力に関しては、安全が確認された原子力発電設備を活用する方針が示されましたが、いつ、どの程度利用できるようになるかが確定していません。また、経済性に優れた石炭の利用に大きな影響を及ぼす環境アセスメントの運用がどのように見直されるかも定かではありません。
また、12年度に施行された固定価格買取制度によって導入が推進されている再生可能エネルギーは、太陽光発電において、電力系統に接続される送電線の容量や需要に合わせて発電できないといった需給面での問題が露呈したこと、需要家のコスト負担が重いことなどが認識されて、制度の見直し作業が進められることになりました。
これらの理由から、エネルギー基本計画は改訂されたものの、エネルギーの需給構成などの議論を開始することができていません。
明らかになった石油精製業における高度化法の新・基準
石油精製設備に関わるエネルギー供給構造高度化法の新たな判断基準案が明らかになりました。新基準は、エネルギー供給構造高度化法が施行された10年に施行された旧基準が14年3月末に期限を迎えたため、石油業界の過剰精製能力の解消、収益改善などを目的に内容を見直して策定されたものです。
新基準は、原油調達、国内の石油需要、各社の成長戦略などの変化に柔軟に対応しつつ、「原油等の有効利用」を促進していくため、石油各社に、常圧蒸留装置の能力削減あるいは「残油処理装置」の装備率(常圧蒸留装置の能力に対する残油処理装置の能力の比率)の引き上げを求める内容となりました。数値目標は、14年3月末時点で45%程度の石油精製業全体の残油処理装置の装備率を17年3月末に50%程度まで向上させることを目指すとされ、個々の企業の目標改善率は、計画提出時の装備率が45%未満の場合13%以上、45%以上55%未満の場合11%以上、55%以上の場合9%以上とされました。各社がすべて常圧蒸留装置の能力削減で対応した場合、日本全体としては現在の約395万BDの精製能力が約40万BDに削減されることになります。
高度化法の旧基準は、JX日鉱日石エネルギー、出光興産、昭和シェル石油の3社が、制度施行前に独自に策定・公表していた石油精製設備の集約計画を基に策定されていましたので、少なくともこの3社にとって合理性は確保されていたと考えられます。しかし、新基準の数値目標の算定根拠は明確に示されていません。11月中旬時点では、まだ、どの石油会社からも設備集約が公表されていませんので、今後どのように設備の集約や業界の再編が行われることになるのは分かりませんが、少なくとも、15年には供給体制に大きな変化が生じることはないと考えられます。
なお、高度化法の新基準に合理性があるとは思えません。安定供給を確保するために必要な供給能力を維持することは国益にかなうと考えられますが、設備廃棄を進めた結果、もし供給能力が過少になってしまった場合、需給がひっ迫して石油製品の供給に支障が生じたり価格が高騰したりする可能性があります。このような状況は石油会社にとっては好ましいかもしれませんが、需要家に望ましいとは思えません。ただし、新基準では、公称能力の削減によって設備対応することが認められていますので、結果的に大きな変化が生じない可能性もあります。
精製能力削減の効果で需給は引き締まり市況の改善も期待されるが…
燃料油の国内需要は、航空便の運行数の増加によって需要が拡大しているジェット燃料油を除いて減少傾向で推移しています。ガソリンは、軽自動車・小型車・ハイブリッドカーなどの普及によって自動車の平均燃費が改善している上に、消費増税や円安などを背景にした値上がりによって買い控えが広がったことなどが、国内需要が減少している理由です。灯油は、家庭分野のエネルギーが電気や都市ガスにシフトしていること、産業用燃料は、政策的に支援されている都市ガスへの燃料転換が進んでいること、発電用燃料は、原子力発電所の設備利用率の低下などによって嵩上げされていた需要が石炭火力発電設備の復旧や新設、ガス火力発電設備の新増設などによって震災以前の水準を下回るようになったことなどが、需要が落ち込んでいる主な理由です。
東日本大震災をきっかけに、有用性が見直された石油暖房機器や給湯機器の販売にも一時の勢いはなくなりました。特に寒冷地で広範に利用されている灯油セントラル給湯・暖房システムは、コスト面で依然優位性があるにもかかわらず、新設だけでなく更新需要もほとんど取り込めていない状態が続いています。家庭用石油機器の普及状況は灯油の将来にわたる需要に影響します。ガス機器の販売が好調に推移しており、電化も着実に進んでいますので、石油の暖房・給湯向け需要は一層の落ち込みが避けられないと考えられます。
上述した事情は15年も続くと予想され、その結果、燃料油の内需は減少傾向で推移すると予想されます。ガソリンは、14年に価格が高騰した時期に需要が著しく落ち込んだ反動で前年同期比では増加する局面がみられるかもしれませんが、減少傾向に歯止めがかかる可能性は低いと思われます。灯油、A重油、一般C重油の需要は、民生用分野における電気・都市ガスへのシフト、産業用分野における都市ガスへの燃料転換などによって減少が続くと予想されます。電力向けC重油は、石炭火力発電および天然ガス火力発電の新増設に加え、原子力発電も13年7月に施行された新規制基準を満たしたユニットが徐々に再稼働していくと見込まれますので、15年も国内需要の落ち込みは避けられない見通しです。
石油製品やLPガスは、需要が一定水準を下回ると全国ネットの供給インフラを維持することが経済的に難しくなり、効率的に製品を供給することができなくなってしまいます。石油製品の需要は、発電分野を中心にかさ上げされていた仮需が剥げ落ちたこともあり、震災直前時を下回る水準まで落ち込んでいます。需要が短期間で大きく減少することがないよう、業界をあげて取り組む必要があると思われます。
石油事業の収益改善は見込みにくい
14年の精製・元売各社の石油事業の(在庫評価の影響を除いた)実質損益は、燃料油の国内需要の減少によって減殺されましたが、4月以降に、供給能力の削減による需給の引き締まりを背景に、ガソリン及び中間三品のマージンが拡大したことによって黒字を確保できました。ただし、石油化学製品事業の収益が、アジアで設備増強が進んで需給バランスが崩れたパラキシレン、ベンゼンなどのマージンが縮小したため悪化し、石油開発事業の収益も原油価格が8月以降に下落した影響で縮小したため、石油事業全体の実質損益は前年実績を下回るもようです。さらに、原油価格の下落によって在庫評価損失が発生していますので、会計上の利益は前年に比べて大幅に悪化する見通しです。
非石油事業の業績には元売間でばらつきが出ています。昭和シェル石油の太陽電事業は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)導入による需要の押し上げと為替の円安によって拡大しています。コスモ石油の風力発電事業の業績もFIT導入による買取価格引き上げの効果で拡大しています。しかし、出光興産の石炭事業は経営合理化効果と石炭価格の低下が相殺されて依然低迷しており、JX日鉱日石エネルギーの新エネルギー関連事業も厳しい状況が続いています。
14年までに実施された精製能力削減の効果によって、15年は原油処理設備の利用率が83%前後まで上昇し、石油製品の需給が崩れにくい状態が続く見通しですので、卸売段階のマージンは比較的高い水準で推移すると予想されます。しかし、石油製品の国内需要が減少し続けると予想されることなどを考慮すると、過去の需給改善局面ほど収益環境が改善することはないと考えられます。
石油販売事業者の収益環境は厳しい状態が続く
石油販売事業者の経営環境は厳しい状態が続いています。ガソリン及び灯油の需要の減少、カーケアなど油外収益の減少などが続いているからです。
元売が、系列販売業者の経営を支援したり、販売を促進したりするため、個別に対応するケースがみられますが、差別的な対応では販売業界全体の収益環境を改善することはできません。むしろ、事業者間の競争をゆがめてしまい、石油販売業界の健全性や合理性を損なってしまう可能性があると思われます。
石油販売事業の収益環境が改善するかどうかは、元売各社が石油製品の販売事業の収益環境の改善に取り組むかどうかによって左右されると思われます。具体的には、需要に見合った生産・供給に努めて割安な製品の供給を絞り込めるかどうか、元売が販売子会社を通じて小売市況の改善に積極的に取り組むかどうかなどがポイントになると考えられます。
中東産原油の15年の中心価格レンジは1バレル70~100ドルと予想
中東産原油の価格は11年の年初から14年8月中旬にかけて1バレル100ドル台から110ドル台前半を中心にした比較的狭い価格レンジで安定的に推移していましたが、世界的な景気の停滞による需要の伸び悩みやシェールオイルの増産による需給の緩和などが影響して下落しました。15年の原油価格は70~100ドルの価格レンジを中心に推移するようになると予想されます。
収益環境改善局面で何ができるか
石油製品の国内需要は中長期的に伸び悩み続けると予想されます。前述したように15年は精製能力の削減によって需給が引き締まると見込まれるほか、原油コストの低下によって、収益環境が改善に向かう可能性がありますが、需要の減少によるマイナスを完全に補うことは難しいと考えられます。
アジア各国で石油精製設備の新増設が計画されていますので、製品輸出の拡大や石油化学製品への生産シフトによって収益を改善できる余地は限られていますが、国内需要の減少に見合ったペースで国内供給能力を削減して、国内需給を引き締めやすい環境を維持することができるかどうか、そして、元売各社が主導して合理化な経営を行っている販売事業者が健全に経営できる水準まで小売市況を立て直すことができるかどうかが、石油業界を健全化できるかどうかのポイントになると考えられます。
石油販売業界では、販売事業者やSS数の減少が続く見通しです。これに伴って、流動化される顧客の中で、油外サービスを利用していただける優良顧客をいかに確保できるか、コスト構造を適正化できるか、リペア、軽塗装、自動車の買取・販売、レンタカー・カーリースなど近年急成長している新しい油外事業などに取り組んで収益を拡大したりして、経営体質をいかに改善できるかどうかによって、会社およびSSの収益力の格差がさらに拡大すると予想されます。
カーケアサービスなど油外事業で高い収益を上げている販売事業者やSSのほとんどがこれらの事業に積極的に取り組んでいる意識の高い経営者やマネージャーによって率いられています。これらマネジメント層がリードをして、優秀な人材である「人財」を確保したり育てたりし、スタッフのモチベーションを高めることができるかどうかによって、石油販売事業者やSSの収益が左右される状況が続くと考えられます。
15年は、将来を見据えた対応が行えるかどうかによって、石油精製・元売、販売事業者ともに、収益の方向性に差が生じるようになると予想されます。