歴史的な暖冬の影響を受ける石油市場 今年は、例年になく温かい日が続いています。日本だけでなく、北米、欧州でも同様で、ニューヨークでは、12月の平均気温が摂氏14度(平年6度)、12月24日のクリスマスイブには平均気温が22度(平年4度)まで上昇しました。今年は、「エルニーニョ現象」が観測されていましたので、世界中で暖冬などの異常な天候が起きる可能性が指摘されていましたが、これまでの暖かさは想定をはるかに上回っています
なお、「エルニーニョ現象」とは、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高くなり、その状態が1年程度続く現象のことで、反対に海面水温が低くなる状態を「ラニーニャ現象」といいます。いずれも異常気象の前触れとされています。
なお、エルニーニョとラニーニャは、数年ごとに繰り返されることが多く、これによってもたらされる暖冬や猛暑などの異常気象は現在話題になっている地球温暖化とは直接関係はありません。
需要減が市況の押し下げ要因に この異常な暖かさが石油製品の需要を押し下げています。もっとも大きな影響を受けているのは暖房油で、需要期にもかかわらず世界各地で在庫が積み上がってしまい、出荷を抑制せざるを得ない状態に陥っています。
この結果、暖房油の市況も崩れています。例えば、米国のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)では需要期の真っただ中の12月にヒーティングオイルの先物期近価格がガソリンより安くなりました。NYMEXで12月にヒーティングオイルがガソリンより安くなったのは2002年以来13年ぶりのことです。これがそのまま小売市況に反映されています。日本では、米国ほど石油製品間の市況に季節性は見られませんが、やはり12月以降に灯油のスポット市況がガソリンより割安になっています。ちなみに、日本では暖房用に灯油が使われていますが、海外では、日本の軽油からA重油に相当する石油留分が用いられています。
暖房油ほどではありませんが、ガソリンの需要も暖冬の影響で抑制されています。道路が混雑しにくくなったり、空調によるエンジンの負荷が軽くなったりして、自動車の燃費を改善するからです。米国では、景気が比較的良好な上に原油安の影響もあり、自動車販売が好調で自動車の普及台数が増加しています。特に大型車、RV車、ピックアップトラックなどの販売が好調です。これらはガソリン需要を押し上げていますが、12月のガソリンの出荷ペースは前年同月を下回っています。国内でもガソリンの販売は振るいません。
暖冬が原油市況の低迷要因の一つに そして、暖房油やガソリンの需要が伸び悩んでいるため原油の需要も抑えられ、生産コストが高い非OPEC産油国の生産が減少に向かっているにもかかわらず、原油在庫は高い水準に張り付いたままです。このような事情から、原油価格は、依然、下値を模索する状態が続いています。
現在の価格では、多くの油田が採算割れ状態で、探鉱・開発投資が著しく減退していますので、近い将来、供給力が落ちて需給が引き締まり、市況も持ち直すと見込まれます。ただし、その時期は、暖冬による影響も考慮すると、年半ば以降になると予想されます。
燃料販売店の収益環境は昨年と様変わりに 国内では、市場連動仕切りが導入されて以来、石油製品の利ザヤは原油市況と同じように動くようになりました。原油のコストが下がる前に製品市況が下落するようになったからです。需要が振るわない中ではなおさらその傾向が強まります。
昨年は、冬場の需要期に、灯油の小売マージンが拡大し、LPガスもCPが7月から1月にかけて急落し利ザヤが拡大していました。このため燃料販売店の収益は比較的良好でした。
今シーズンは、灯油の利ザヤが縮小しており、LPガスも11月から12月にかけてCPが引き上げられたことから、昨年に比べると利ザヤは圧縮される見通しです。このまま暖冬が続き、利ザヤが回復しないと、燃料販売店の収益は昨年とは様変わりしてしまいそうです。需要が振るわない状況だからこそ、石油製品の値付けには慎重を期すべきと思われます。