複雑で多くの問題を抱えるガソリンの税制
2018.10.20
複雑で多くの問題を抱えるガソリンの税制 トリガー条項の発動水準に接近
 原油価格が上昇しています。2018年9月の平均価格は、NY原油(WTI原油)の先物期近価格が1バレル70ドル、ドバイ原油スポット価格が77ドルでした。前月の平均価格に比べてそれぞれNY原油が2ドル、ドバイ原油が5ドル上昇しています。さらに、10月初旬の価格は、NY原油が74ドル、ドバイ原油が83ドルまで上昇しています。

 原油輸入CIF価格は、4月に1リットル当たり44・3円でしたが、8月は53・9円まで上昇しました。9月は8月とほぼ同水準になると予想されますが、原油価格と為替レートが10月初旬の水準のままで推移すると、10月には57円程度、11月には61円程度まで上昇すると予想されます。

 一方、政府の小売物価統計調査によると、ガソリンの9月の都市別小売価格の平均は154円でした。9月以降の原油輸入コストの上昇分がそのまま小売価格に反映されると11月の全国平均は160円を上回る可能性があります。

 ガソリン小売価格160円は後述するトリガー条項の発動水準です。


複雑なガソリンの税制
 ガソリンの小売価格には、現在1リットル当たり53・8円の「ガソリン税」(正式には「揮発油税」及び「地方揮発油税」)が課せられています。

 内訳は揮発油税の本則税率が24・3円、特例税率が24・3円、地方揮発油税の本則税率が4・4円、特例税率が0・8円で、いずれも道路整備費の財源に充てられている国税です。なお、沖縄県は揮発油税が39・7円、地方揮発油税が7・1円に軽減される一方で、沖縄県石油価格調整税条例によって1・5円加算されていますので、ガソリン税は他の都道府県に比べて5・5円軽減された48・3となっています。

 石油製品には、製品税のほか輸入原油に0・76円の地球温暖化対策税が課せられていますので、製品価格にはこの税額も含まれています。ガソリンは、これらの税額が含まれた価格に消費税が加算されている、いわば税金に税金が課せられた二重課税状態になっているのです。またガソリンはタバコに次いで税負担の重い商品です。

 ところで、53・8円のガソリン税のうち25・1円分は暫定税率分でしたが、暫定税率が2010年4月に廃止された際に、当時政権を担っていた民主党の意向によって同額分の特例税率が創設されるとともに、租税特別措置法に「揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の特例税率の適用停止」、いわゆるガソリン価格高騰時におけるトリガー条項が追加されました。トリガー条項の運用方法は、小売物価統計調査規則第1条に規定する小売物価統計調査の隔月の結果として公表された都市別の自動車ガソリンの小売価格(消費税及び地方消費税込)の平均が3カ月連続で160円を超えた場合には特例税率の課税が停止され、その後、店頭価格が3カ月連続で130円未満になったら課税が再開されるといった内容になっています。トリガー条項の対象には、リットル32・1円の軽油引取税が課せられている軽油も含まれており、ガソリン税に連動して軽油引取税も同額減増される仕組みになっています。トリガー条項が発動されると、指定日以後、揮発油税法及び地方揮発油税法の本則税率が適用されることとなり、消費税及び地方消費税込みのガソリン税の分だけガソリンの小売価格が低下し、軽油の小売価格も同じ幅だけ低下することになります。

 ガソリン税制に係るトリガー条項は、これまでに発令された事例はありません。また、東日本大震災直後の2011年4月にガソリン価格が高騰した際に「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律第44条」により、2011年4月27日から別に法律で定める日までその適用が停止されています。ただし、法律そのものが廃止されているわけではありませんので、政治判断によってトリガー条項が復活してガソリンや軽油の価格や需給に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。


多くの問題を抱えているガソリンの税制
 ガソリンの暫定税率が期限切れを迎えた2008年4月に、当時、参議院で多数派を占めていた民主党が反対したため暫定税率が一時失効し、衆議院による再採決によって暫定税率が復活した5月までの1か月間、ガソリン価格が急落したことがありました。この時には、SSにおいて、3月末に買い控え、4月末に駆け込み需要の発生、5月に先買いの反動による需要減といった混乱が生じました。

 ガソリン税と軽油引取税は道路整備に充てられる特定財源でした。2009年度に一般財源化されましたが、事実上、その位置付けは変わっていません。リットル25・1円の軽減措置が取られると税収は年間で約2兆1千億円、月間で約1800億円減少しますので、代替財源が確保されない限り、軽減され続けるとは思えません。

 よって、仮に、政治判断などによってトリガー条項が発動されると、SS業界は、暫定税率の失効・復活の際と同じような異常事態に陥る可能性があるのです。

 なお、EV(電気自動車)はガソリン税を負担していませんし、PHV(プラグインハイブリッド自動車)も、充電した分だけ燃料に係る税額負担が軽減されていることになります。EVやPHVが普及すると、道路財源に少なからぬ影響が及ぶことになります。

 ガソリンは、二重課税、重税、暫定税率、特例税率、道路財源の不足などの多くの問題を抱えているのです。

 石油業界はこれらの問題の是正を唱えていますが、国民には正しく理解されていないように思われます。


北海道のガソリン価格予想
4月15日(月)から4月21日(日)まで
価格上昇
値戻し後に値下げも

04月20日付ヘッドライン

■広がる困惑、失望感 対量販構図変わらず 札幌市場
■昨年度、減少に転じ17件 危険物取扱者の違反行為
■3月決算組「まずまず」 収益環境の良化が支える
■消費、供給ともに減少 2022年度エネルギー需給実績
■42%が「月に1回以上」 GfKJapanが洗車で調査