注目される出光昭和シェルの経営施策
2019.3.20
2019年4月に出光昭和シェルが誕生
 出光興産株式会社(以下、出光)と昭和シェル石油株式会社(以下、昭和シェル)が19年4月1日に経営を統合し「出光昭和シェル」が誕生します。両社は、15年7月30日に経営統合に向けての協議を本格化させることで合意し17年4月の経営統合実現を目指していましたが、出光の大株主の創業家の反対によって計画が大幅に遅延していました。昨年7月に創業家の一員の出光正和氏との間で、役員の推薦、「出光」ブランドの継続使用、自社株取得、株主還元などの条件により、経営統合への賛同が得られたことから、経営統合を実現できることになったのです。17年4月に誕生した石油製品の国内シェアの約5割を占めるJXTGグループに続いて、国内シェア約3割を占める出光昭和シェルが誕生することで、日本の石油業界は一気に寡占化が進むことになります。

 統合会社の名称は「出光興産株式会社」、トレードネームは「出光昭和シェル」となり、代表取締役会長に出光興産の月岡代表取締役会長、代表取締役副会長に昭和シェル石油の亀岡代表取締役社長執行役員、代表取締役社長に出光興産の木藤代表取締役社長、代表取締役に昭和シェル石油の岡田代表取締役副社長執行役員、出光正和氏が非常勤取締役に就任します。今年1月以降に統合会社の人事が公表されましたが、役員及び幹部には、両社出身者がほぼ均等に配置されています。

 経営統合は、出光興産が昭和シェル石油の発行済株式のすべてを取得する株式交換の方式で行われ、昭和シェル石油の普通株式1株に対して出光興産の普通株式0・41株が割当交付されます。

経営効率化をいかに前倒しし実現できるか
 先に経営統合を実現したJXTGエネルギーが取り組んできた経営合理化策は、石油製品の卸売及び小売市況を底上げし、日本の石油業界全体の収益環境の改善につながりました。また、統合後3年以内にグループ全体で年額1千億円以上を実現すると説明されていた統合シナジーは、計画を上回るペースで進捗し、この結果、JXTGグループは、17年度~19年度の中期経営計画の経営数値目標(19年度の在庫影響を除き営業利益5千億円など)を前倒しして達成できる見通しです。

 出光昭和シェルは、経営統合後3カ年で年額6百億円の効率化を達成する計画を公表しています。効率化の主な内容は、①原油調達(共同調達、タンカーの共同配船、傭船/新造船コスト削減)15億円、②需給・海外 物流・販売(最適生産計画システム一体化、7製油所の製品・半製品相互融通、出荷基地の相互利用・共同配送、輸出入一体化と海外販売の拡大、出荷基地の統廃合)290億円、③製造・調達(精製マージン改善施策のベストプラクティス展開、共同調達によるコストの削減、IMO対応の最適化、揮発油需要減対応等)205億円、④共通(組織統合による重複コスト削減、設備投資の最適化、潤滑油基地の相互利用、ITシステム・BPRの推進等)90億円です。このほかに、販売ネットワーク拡大による競争力強化、両グループの強みの活用などを図ると説明しています。

 石油事業の規模を対比すると、出光昭和シェルの効率化目標はJXTGグループの目標とほぼ同じ水準で、その内容から見ても、この計画は十分に達成できると見込まれます。ただし、JXTGは、出光昭和シェルの中期経営計画の期間にさらに統合シナジーを積み上げていくと予想されますので、出光昭和シェルの課題のひとつは、効率化をどれだけ前倒しして達成できるかどうかになります。


収益環境を改善するための対策が必要
 出光昭和シェルが誕生することで、石油製品の販売競争が抑制されやすくなると予想されますので、石油業界の収益環境は当面崩れにくくなると見込まれますが、収益環境が悪化するリスクはあります。出光昭和シェルの重要な課題は、これらのリスクに対応し、業界の収益環境をさらに改善することと思われます。

 例えば、石油製品の国内需要は、航空便の運行本数の増加によって需要が拡大傾向で推移しているジェット燃料油を除くと、自動車や石油機器の燃費の改善、都市ガスへの需要シフトなどによって、減少傾向で推移する見通しですが、国内向け供給力の削減につながる設備集約が進む状況ではありません。収益環境が良好なため精製能力を削減するインセンティブが乏しくなっていることもその理由のひとつです。

 このままだと、需給ギャップが拡大しシェア争いが激化する可能性がありますが、出光昭和シェルは現時点では供給力を削減する計画はないとしています。石化製品への生産シフト、製品輸出の拡大などはもとより、中長期的に需給バランスの最適化を図るための取り組みが必要と思われます。

 また、過当販売競争に陥りにくくするための対策も必要と思われます。

 例えば、出光興産が系列SSの一部に採用しているコミッションエージェント(CA)方式は、市況に依らずに一定の利ザヤが確保される仕組みですので、市況悪化局面では、販売数量を確保しやすいものの、小売市況をさらに下押しするリスクがあります。CA方式で約束された以上の利ザヤが確保されているうちに、廃止、あるいは内容の見直しを図る必要があると思われます。

 昭和シェルも長年ガソリンの出荷シェアの拡大に取り組んでいましたが、JXTGエネルギーが成果を上げた経営合理化策に例えるまでもなく、需要減少局面では、販売量の拡大を志向するより、需給の引き締めと市況の底上げに取り組む方が成果が得られやすくなります。

 出光昭和シェルがどのような営業施策をとるかが注目されます。 


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