実現した50年前の未来の夢の乗り物 50年前、小学生だった私は子ども用の科学誌やSFなどを読みふけっていました。その当時描かれていた未来の夢の乗り物は、電気自動車、石油以外の燃料で走る車、呼んだら迎えに来てくれたり目的地まで自動で運んでくれたりする自動運転の乗り物、地面から浮き上がって走ったり、空を飛んだり、陸海空を自由に動き回ったりすることができる小型の乗り物などでした。これらの車や乗り物は、現時点ですでに開発済みか、技術的に実用化できるめどが立っています。
電気自動車(EV)は本格的な普及期に差し掛かりつつありますし、石油以外の燃料で走る天然ガス自動車や燃料電池車(FCV)も市販されています。これらの車については皆様もよくご存じのことと思われますので、今回は説明を割愛させていただきます。
また、自動運転は、ドライバーの運転を補助する仕組みが広く普及しており、ドライバーが不要になる完全自動運転車のめども技術的には立っています。
唯一、飛んだり、陸海空を自由に動き回ったりすることができて人が乗れる小型の乗り物は、まだ実用化されていませんが、これもコストを度外視すればつくること自体は難しくありません。
自動運転は運転支援システムの普及が進む 物 自動運転は、運転を自動化する仕組みがまったく搭載されていないレベル0から、エリアを問わずドライバーがまったく不要になるレベル5までの6段階に分類されます。
レベル1は速度あるいはステアリングを、レベル2は速度とステアリングの両方を車・システム側が自動的に制御することで、適切な速度や車間距離を保ったり、接触・衝突を回避したりして、安全性を高めたり、ドライバーの運転時の負担を軽減したりすることができる仕組みです。
この段階までの自動化は、現在、わが国で販売されている多くの車にすでに導入されています。
レベル3は緊急時を除いてドライバーの操作が不要になる段階、レベル4はあらかじめ設定されたエリア内で、レベル5はエリアを問わずに、それぞれ車・システムによって完全に自動運転されるしくみです。
レベル3のシステムを搭載した車は、現在、公道で実証試験が行われており、レベル4も実用化に向けた準備が進められています。
「空飛ぶクルマ」の普及は? 空を飛ぶ小型の乗り物に関しては、経済産業省が、電気を動力源とし、自動飛行や垂直離着陸ができると定義した「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」(通称「空飛ぶクルマ」)の構想を立ち上げたことが話題になりましたが、18年8月に経済産業省と国土交通省が合同で設置した「空の移動革命に向けた官民協議会」が昨年12月に取りまとめたロードマップに課題や必要な政策などが分かりやすく示されています。同ロードマップには19年に試験飛行・実証試験等を開始し、20年代半ばから「物」、「地方での人」、「都市での人」の順に事業化を進め、30年代に実用化を拡大するという目標が示されています。
空飛ぶ乗り物は、ヘリコプターの小型化、ドローン(遠隔操縦あるいは自立運転式の無人航空機)の大型化などによって実用化が図られると予想されます。
新しい乗り物が普及するかどうかのカギは経済性 新しい乗り物が普及 するかどうかのポイントは、「技術」、「社会ニーズ」、「安全性」、「経済性」などで、最大のカギは事業化の可否を左右する経済性によると考えられます。
新技術の普及を図るために、開発を支援したり、新技術を利用した製品やサービスの導入を促す目的で、政策的に補助金が支給されたり、税制メリットなどが供与されたりすることがありますが、これらの支援がなくなっても十分な収益性が確保できる経済性があるかどうかが本格的に普及するかどうかを左右すると考えられます。
EVはこれらの課題をクリアしつつありますが、天然ガス自動車やFCVは技術面での大きなブレークスルーがないと普及には至らないと予想されます。EVが本格的に普及するようになると、ガソリン需要の減少ペースが加速し、石油業界はその対応に追われることになると予想されます。
自動運転は、安全性の向上、ドライバーの負担軽減などにつながるレベル2までは着実に普及が進むと予想されますが、すでに事故の減少などに効果を発揮し、鈑金・塗装などの業界に少なからぬ影響を及ぼしています。
レベル3以上の自動運転は、安全性の確保、自動運転時における事故発生時の責任の所在、自動運転化されていない車との混在による弊害などが問題化する可能性があり、普及を図るためには、世界的な運用ルールの策定、道路交通法などの交通法規の改定、保険運用ルールの見直しなどが必要になると思われます。
空飛ぶクルマは、ドローンによる物流システムが既存の物流を補助するシステムとして普及する可能性が十分にあると思われます。人の移動に利用できる小型の空飛ぶ乗り物は、運航するために必要なスペースやコストに課題がありますので、緊急用、レジャー用など限定された用途で普及する可能性があると思われます。既存の乗り物を置き換えるようになるとは思えませんので、産業界への影響は限定されると予想されます。