過去の増税時に少なからぬ影響を受けた石油業界物 今年10月、5年半ぶりに消費税率が引き上げられる見通しです。89年4月に消費税が創設(税率3%)されたり、税率が改定(97年4月に5%に引き上げ、14年4月に8%に引き上げ)されたりした時には、税率が引き上げられる1~2週間前からSSで満タン給油の増加や駆け込み需要の発生によって販売量が増加し始め、直前1~3日には一部のSSで品切れが起きたり、品切れを防ぐために給油量を限定せざるを得なくなったりしました。そして増税後に駆け込み需要の反動で販売量が落ち込みました。また、増税直前に安売りが減少して粗マージンがやや拡大し、その後、縮小する動きが見られました。
08年4月に、ガソリン税及び軽油引取税に含まれている暫定税率(ガソリン㍑25・1円、軽油㍑17・1円)が期限切れによって廃止され、翌5月に同額の特例税率が適用された際には、3月に買い控え、4月に仮需の発生による販売量増、5月に仮需の反動による販売量減が生じました。この際には、ガソリンの粗マージンが4月に前月比㍑約3円拡大した後、5月に㍑約4円縮小し、軽油の粗マージンも4月に前月比でSS小売が㍑2・5円程度、インタンクが㍑1・5円程度ずつ拡大した後、5月にSS小売が㍑3・5円程度、インタンクが㍑0・6円程度それぞれ縮小しました。
消費増税時に混乱が起きないよう対策をとっておく必要がある 今年10月に消費税率が10%へ引き上げられる際には過去の消費増税時と同様の動きが起き、特に北海道では灯油の仮需が発生する可能性があると予想されます。今回の消費増税時と過去との違いのひとつは、タンクローリーの運転手が不足していることです。この影響で元売・卸側が販売量の急激な増加にタイムリーに応じられなくなってしまう可能性があります。
消費者心理からして、確実に値上がりすることが分かっている場合には、値上がり前に取引量が増えるのは避けられないと思われます。
よって販売事業者は、お客様の信頼を損ねるリスクがある品切れが起きないようにするため在庫を多めに手当てしたり、増税の影響がガソリンで㍑2円~3円、灯油・軽油で㍑1円~2円程度とそれほど大きくないことや、増税直前にSS店頭が混雑するおそれがあることを十分に周知したりして、SS店頭や配達時に混乱が起きないよう対策を取っておく必要があると思われます。
増税時にこそガソリンの重税・二重課税の問題等を提起すべき 消費増税時は、国民の税金に対する関心が高まりますので、石油諸税の問題を理解してもらう絶好の機会と思われます。
例えば、消費増税に関するSS店頭での告知に石油諸税の問題を併記することはその一案と思われます。
ガソリンには製品出荷(蔵出し)段階で揮発油税及び地方揮発油税が合計㍑53・8円(以下「ガソリン税」、沖縄県は㍑7円軽減された㍑46・8円)課されており、国内で生産される石油製品の原料となる原油には㍑2・8円の石油石炭税が課せられています。これらはガソリンの本体価格に含まれていますので、ガソリン税、石油石炭税にも消費税が課されています。今年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられると、8月中旬の価格が維持されたとしてレギュラーガソリンの消費税額は㍑10・8円から㍑13・5円へ㍑2・7円増えますが、このうちガソリン税に課されている消費税額だけでも㍑4・30円から㍑5・38円へ㍑1・08円増額されることになります。
89年4月に3%の消費税が導入された際には、それ以前に製品やサービスに課されていた娯楽施設利用税、トランプ類税、物品税等などは廃止され、酒税やたばこ消費税などは税額が引下げられましたが、ガソリンにはこのような配慮がなされませんでした。
石油業界人には、ガソリンの重税やガソリン税に消費税が課されている二重課税の問題は常識と思われますし、石油業界は、ガソリンや軽油の重税及びガソリンの二重課税の問題を毎年各方面に提起し続けていますが、この事実は、必ずしも国民の一般常識にはなっていません。国会で石油諸税の引き下げが本格的に議論されたのは、民主党がガソリン及び軽油の税額に含まれている暫定税率の廃止を党の方針に掲げた07年度だけでした。
ちなみに、国や地域によって石油税制は異なります。イギリス、フランス、ドイツでは、ガソリン及び軽油の石油諸税の税率は日本より高くなっていますが、日本の消費税にあたる付加価値税において石油製品は用途によって税率の軽減制度が導入されています。米国のガソリン、軽油の税率は州によって異なりますが、日本や欧州諸国の数分の1の水準にとどめられていますので、日本や欧州のような重税感はありません。
特定品目に関する税制改正は簡単ではありませんが、消費増税時に国民に訴える意味は小さくないと思われます。