燃料油内需は2~3年分下振れへ
経済産業省の石油統計によると、2020年4月から6月までの燃料油内需は、前年同期比12・6%減の3307万kl、製品別ではガソリンが同16・6%減、ジェット燃料油が同66・3%減、灯油が同9・6%増、軽油が同8・9%減、A重油が同3・4%減、C重油が同13・2%減でした。輸出も同45・9%減の406万klにとどまりました。
新型コロナウイルスの感染防止対策の影響で、世界的に経済活動が制約され、国や地域間での人の移動が制限されたからと考えられます。
ガソリンの内需は、4月から前年比2桁減のペースで推移しています。6月19日に都道府県をまたぐ移動制限が解除されてマイナス幅はやや縮小しましたが、お盆の帰省シーズンにも例年のような交通渋滞は発生していませんので、今年度前半の内需は前年実績を10数%下回ると予想されます。
ガソリン以上に需要の落ち込みがひどいのがジェット燃料油で、国内向け、国際便向けを含む輸出ともに4月以降の需要は前年同期の約3分の1の水準に落ち込んでいます。
産業燃料も、自動車の販売・生産の落ち込み、機械受注の減少、住宅・建築物着工の減少などにより低迷が続いています。鉱工業生産の動向をみると、主要産業の国内の生産水準は、3月から5月にかけて急激に悪化し6月も回復していません。緊急事態宣言の解除による経済活動の再開を考慮しても、新型コロナウイルスの影響が生じる前の水準に戻るには相当の期間を要すると考えられます。
テレワークの普及などによって変化したワークスタイルの変化は多くの分野で定着すると予想されます。さらに、企業収益の悪化や所得の減少による影響も懸念されます。燃料油の内需は、コロナの影響が収束した時点で2~3年分需要の減退が進んだ水準になるのではないでしょうか。
石油製品輸出もすぐに元には戻らない
石油製品輸出もすぐに回復するとは思えません。石油製品需要の減退は世界的な動きで、需給の悪化によって縮小した石油製品のマージンも短期間で回復するとは考えにくいからです。
コロナの影響に加えて、地球温暖化対策の広がりによる影響も考慮する必要があるでしょう。例えば、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車など燃費の良い自動車の普及、省エネ、エネルギー転換などの動きが世界各地で加速しているからです。
コロナの影響が収束した後に多少の回復は見込まれますが、石油製品の世界全体の需要増加ペースは鈍化する可能性が高いと見込まれます。
需要減で製油所の早期集約等が不可避に
需要の下振れによって国内の石油精製能力はさらに過大になると予想されます。ENEOSや出光興産などの販売政策の見直しが功を奏して、ここ数年は燃料油の需給の適正化と安売りの是正が図られて、石油業界の収益環境は改善しましたが、需給ギャップが拡大したままだと市況が崩れるリスクは高まります。精製・元売各社は、収益環境を維持するために、精製設備の集約計画を前倒ししたり深掘りしたりすることが必要になると予想されます。
エネルギー供給構造高度化法の2次告示以降の原油処理能力の削減のほとんどが、公称能力の削減によって行われましたので、コロナの影響が生じる前の段階でも製油所の原油処理能力は10数%削減する必要がありましたが、コロナの影響や今後の需要の減少による影響を考慮すると、数年内に国内の精製能力は20%以上削減する必要が生じると考えられます。
ENEOSが行っている麻里布製油所と千葉製油所を対象にした海外事業者との石油精製事業の共同事業化の成否にもよりますが、平均的な規模の製油所2~3カ所、あるいは3系列以上の精製設備の廃止が必要になる計算です。
元売の再編は一段落しましたが、ENEOS以外は単独で精製設備を集約することが難しいと思われますので、精製設備の廃棄、国内外の石油事業者との提携や共同事業化などの需給対策がすべての元売に求められるようになると予想されます。その実現時期によって、石油業界の収益環境は左右されることになると考えられます。