環境重視は不可逆的な変化
地球温暖化による気候変動は、氷河や永久凍土の融解や海面水位の上昇、洪水や干ばつなど自然災害の増加などを通じて、人間の生活や動植物の生態系などに様々な影響を与えています。このため地球温暖化を引き起こしている原因の一つとされている温室効果ガスの大気中の濃度の上昇を抑えるため、人間活動による温室効果ガスの排出量の抑制に向けた国際的な取り組みが強化されています。
温室効果があるとされているガスの中で最も構成比が高いのは2酸化炭素で、その大半は石炭・石油・天然ガスなど化石燃料の燃焼やエネルギー転換、鉄鋼・セメント・化学製品などの生産過程で排出されており、わが国では、温室効果ガス排出量の9割以上をエネルギー起源の2酸化炭素が占めています。
このため、地球温暖化対策はエネルギーの低炭素化(脱炭素化)とほぼ表裏一体となっています。環境とエネルギーの政策の一体化が唱えられているのはこのためです。
エネルギーは、経済活動や人の暮らしにとって必要不可欠な基礎資材であり、エネルギー需要は、人口の増減、生活水準の向上、社会の高度化などによる経済成長を反映して拡大傾向で推移しています。このため、すべての国において、エネルギーを安定的に調達し供給し続けることが政策上もっとも重要な課題の一つです。
エネルギーの需給構造の変化は政策と経済性による影響を強く受けます。安全確保を大前提に、エネルギーの安定供給の確保、経済性の向上、環境対応を同時に達成することが、エネルギー政策における基本方針になっていますが、近年、前述した地球環境問題への関心の高まりを背景に、「環境」対応の比重が高まりつつあります。
そして、環境を重視する世論の形成、並びに政治的判断、金融機関や機関投資家が環境をテーマに投融資先を選別する動きなどが急速に広がっており、これが再エネの導入拡大、石炭をはじめとする化石燃料からのフェードアウト、電化などをさらに推し進め、エネルギーの需給構造に大きな影響を及ぼしています。
これらの判断の中には合理性を欠くと思われるものも少なくありませんが、もはや不可逆的な変化が起きているととらえるのが妥当と思われます。
各国のエネルギー需給は個別事情を反映している
世界全体のエネルギー需要は、OECD諸国のエネルギー需要が、人口の伸び悩み、経済成長の鈍化、省エネの進展などによって2000年代半ばから減少あるいは横ばいになる一方で、新興国や発展途上国では人口の急増、高度経済成長によってエネルギー需要が拡大し、国・地域別のエネルギー消費構成が大きく変化しています。中でも特に中国の台頭が顕著です。なお、中国は2酸化炭素の排出量でも傑出した伸びを示しています。
世界のエネルギーの需給構造の変化をみると、18世紀に、石炭を熱源とする蒸気機関の利用が広がる「産業革命」が起きて石炭の消費量が急増し、1950年代から1960年代にかけては中東やアフリカで大規模な石油資源が次々と発見・開発され、石油利用技術が発展したことと相まって石油の消費量が急増しました。
その後、2度にわたる石油危機をきっかけに1970年代半ばから天然ガスや原子力の利用が広がり、2010年前後から、地球環境問題の顕在化を背景に、風力及び太陽光による発電電力量が、普及政策の導入、技術進化、コスト低減などにより急拡大しています。
脱原子力が世界的な潮流と説明されることが少なくありませんが、原子力の世界全体の発電電力量はわが国の発電量が急減した2010年代初頭を除くと増加傾向で推移しています。
フェードアウトが話題に上ることが多い石炭も同様で、2010年前後から消費量を抑制しようとする動きが広がっているのは事実ですが、石炭の消費量が顕著に減少しているのはシェール革命で天然ガスの価格が急落し石炭の経済性が低下した米国と、発電事業者に割高な国内炭の使用を義務付けていた法律を撤廃した英国など欧州の一部にとどまっており、新興国や発展途上国の消費が拡大しているため世界全体の消費量は減っていません。
環境にかかわる国際会議などの場で、欧州各国は現状を説明せずに30年~40年先に実現を目指している計画をアピールしているのに対して、わが国は現状をもとに説明する傾向がありますので、実情が正確に理解されていないように思われます。
わが国のエネルギー事情もエネルギー政策の変遷を反映する
わが国では、第2次大戦後から1970年代初頭にかけての高度経済成長期に利便性や経済性の高さから石油の消費量が急増し、1973年には1次エネルギー供給量の70%余りを輸入原油が占めていましたが、2度にわたる石油危機をきっかけに石油代替エネルギーの導入及び利用の拡大(脱石油政策)とエネルギー利用の効率化(省エネ)が政策的に推し進められ、省エネ、石油から石炭及び天然ガスへの燃料シフト、原子力発電の導入及び利用の拡大などが進みました。
そして東日本大震災以降、原子力を有効に利用できない状況が続く中で、導入促進策の効果によって太陽光発電が急速に普及するなど、新たな構造変化が起きつつあります。
今後は環境対応のため、省エネ、電化シフト、洋上風力を中心にした再エネの導入などがさらに推し進められ、石油をはじめとする既存エネルギーの需要は減少し続けると見込まれます。
既存のエネルギー事業の経営環境は徐々に厳しくなっていくと予想されますので、エネルギー事業者は、環境・エネルギー政策の先行きを踏まえて、中長期的に構造的な対応を図る必要があると考えられます。