脱炭素化政策強化の影響
2020.12.22
先進諸国の脱炭素政策の足並みが揃う見通しに

 2020年9月に首班指名された菅内閣総理大臣は、就任後初の所信表明演説で「我が国は2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにするカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。我が国が現時点で国際公約しているGHGの長期削減目標は、2016年に策定された「2050年までに2013年度比で80%削減」ですが、来年策定される第6次エネルギー基本計画、来年11月にスコットランドのグラスゴーで開催予定の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)などで「2050年カーボン・ニュートラル」の目標が公約されることになるのはほぼ確実と思われます。この目標は、気候変動への取り組みを強化しているEU加盟国などの現行目標とほぼ同じです。

 一方、2020年11月に行われたアメリカ大統領選挙によって次期大統領に民主党のジョー・バイデン元副大統領が就任する見通しとなりました。トランプ現大統領は、地球温暖化に関する学説に異を唱えており、2019年11月に気候変動への国際的な取り組みを決めた「パリ協定」からの離脱を国連に通告するなど、地球温暖化対策に否定的な政策をとっていました。政権交代によって、アメリカも環境重視政策に舵を切り直し、主要先進国の脱炭素化に向けた足並みが整うことになる見通しです。なお、トランプ政権は、アメリカ国内のエネルギー資源開発を支援する政策をとっていましたが、この政策も修正されることになると予想されています。


脱炭素化が石油業界に及ぼす影響

 我が国で脱炭素社会を実現するために掲げられている主な対策は、省エネルギーの徹底、洋上風力発電など再生可能エネルギーの最大限導入、安全最優先での原子力利用の推進、低効率の石炭火力発電所の廃止、エネルギーの電化などです。

 2050年ゼロ・エミッション政策の公表以降、経済産業省が2030年代半ばに国内で販売される新車をすべてハイブリッドカー(HVC)や電気自動車(EV)などの電動車にする目標を設定する方向で調整していること、さらに菅首相が、脱炭素化技術支援へ2兆円の基金を創設すること、自動車から排出されるCO2をゼロにすることを表明するなど、脱炭素化を推進するための具体策が次々に明らかになっています。

 脱炭素政策の強化が石油業界にどのような影響を与える可能性が高いのでしょうか。

 まず、石油需要への影響は、経済成長による増加、需要構成の変化(他エネルギーへのシフト)による減少、利用機器の更新による消費原単位の減少、発電などエネルギー転換利用分野における供給構成の変化による減少などによります。いずれも短期間で変化するものではありませんので、世界の石油需要が急速に減少する可能性は低いと考えられます。むしろ、短期的には、資源開発が制約されるようになることでの供給面への影響の方が大きくなり、原油の需給が引き締まって価格が押し上げられる可能性があると予想されます。

 石油製品需要への影響は以下のように考えればよいでしょう。まず、自動車の脱炭素化に関しては、ガソリンや軽油の需要は、自動車の利用台数の増減、廃車と新車の燃料消費量の差による影響によりますので、仮に新車をすべてEVに限定する政策が導入されたとしても、年単位では新車が利用台数に占める比率(過去10年間の平均は約7%)分しか需要は減少しませんので、年率では数%程度の影響にとどまると考えられます。

 家庭用の暖房機器や産業用のボイラなどについても石油利用機器の使用制限が設けられない限り同様です。

 したがって、脱炭素化の石油業界への影響は徐々に広がると考える必要があります。ただし後戻りすることはほぼあり得ませんので、業界全体では、需給バランスの調整、過当販売競争の抑制に継続的に取り組むこと、個々の事業者では石油需要の減少を前提にした事業構造の改革を進めることが求められます。

 これらの構造的な対応は、収益や財務に余裕がある時期でしか取り組めないことに留意していただきたいと存じます。 


北海道のガソリン価格予想
4月22日(月)から4月28日(日)まで
変わらず
仕切りにより、値上げも

04月25日付ヘッドライン

■膨らむ期待GW商戦 一気呵成の「挽回」期す
■「失敗は有効解導く手段」 札危協保安研修会で三田薫氏講演
■石販業者への配慮明記 官公需「基本方針」が閣議決定
■保有率77.6%、小幅減少 自工会が乗用車市場動向調査
■好調油販さらなる拡販に照準 フルの強み生かし道エネ環状通SS