脱炭素化社会実現のために打ち出された純ガソリン車の販売禁止構想
菅政権は「2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにするカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」政策を掲げています。我が国が脱炭素化を実現するために現時点で掲げている主な対策は、省エネルギーの徹底、洋上風力発電など再生可能エネルギーの最大限導入、安全確保を大前提にした原子力利用の推進、低効率の石炭火力発電所の廃止、電化の促進などです。
そして、具体策として経済産業省が、2030年代に国内で販売される新車をすべて電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HVC)、プラグインハイブリッドカー(PHV)などの電動車にする目標を設定する方向で調整していることが明らかになりましたが、東京都の小池知事は2030年までに都内で販売される新車をすべて電動車に切り替える方針を掲げました。
海外では、中国や欧州などで手厚い政府支援の下、EVの開発および普及が促進されており、航続走行距離の延長など性能・機能の向上、コストの低減、充電インフラの拡充などが急速に進んでおり、コストパフォーマンスの向上や環境意識の高まりなどを背景に各国でEVの普及が加速しています。
今後、国の電動車政策の切り替え時期が前倒しされたり、対象車種が限定されたりする可能性は十分にあり得るでしょう。
純ガソリン車販売禁止による影響
電動車、とりわけEVの導入推進による影響を最も強く受けるのは自動車関連産業です。我が国の自動車メーカーの多くはガソリン車とHVCに強みを持っているからであり、これが我が国でEVおよびPHVが普及していない原因のひとつになっています。
ただし、EVの進化、世界の自動車市場の変化、世界各国の自動車政策の変化などにより、我が国の自動車メーカーも早晩、EVを重視せざるを得なくなると予想されます。
ガソリンの需要は、EVおよびPHVが本格的に普及するようになると抑制されますが、短期間で急減するわけではありません。
自動車用燃料の需要は、自動車の利用台数の増減、廃車と新車の燃料消費量の差による影響によるからで、仮にその年に販売される新車がすべてEVに限定されるようになったとしても、年単位では総利用台数に占める新車の比率(過去10年間の平均は約7%)に相当する分しか需要は減少しません。
したがって、脱炭素化政策の石油販売業界への影響は徐々に広がると考えるのが妥当と思われます。
石油製品のガソリンの国内マージンを維持するためには、需要の減少に対応した国内向け供給能力の削減や過剰供給の抑制、採算販売の徹底などに継続的に取り組むことが求められます。
そのためには設備の廃棄、事業所の廃止、要員の削減あるいは配置転換、事業構造を変革するための先行投資などが必要になりますが、これらの対策は収益や財務に余裕がなければできません。速やかに対策に取り組む必要があると考えられます。
石油販売業者は中長期的な視点で経営改革に取り組むべき
石油販売業の収益環境は、元売の再編や販売政策の是正などを背景にした小売マージンの改善によって近年は比較的良好ですが、今後ガソリン需要の減少ペースが加速すると見込まれますので、このまま好環境が続くとは限りません。
カーケア、自動車の買取・販売、カーリースなどの油外事業でも事業環境の変化を考慮した対応が求められます。例えば、カーケア事業では、石油販売事業者が収益を拡大しやすい事業とそうでない事業が明らかになりつつあります。
点検・整備は、カーディーラーの台頭、メーカー指定工場以外では整備が難しい電動車やエンジンカバー装着車の増加などにより、石油販売業者の対象は軽自動車、高経年車などが中心になると予想されます。鈑金や塗装のニーズも自動ブレーキや運転アシストなどの自動運転システムの普及や保険制度の見直しなどにより減少しています。
一方、洗車、ボディコーティング、ガラスコーティング、ボディリペア(軽鈑金)、車内クリーニング、タイヤ交換、消耗品やアクセサリーパーツの販売、保険などは車種構成の変化に直接左右されることはありません。
ただし、燃費の向上による来店頻度の減少やEVの普及に対応するためには、お客様を積極的に呼び込み、質の高いサービスを提供して満足を得るとともに、顧客や見込み客にタイムリーに効果的な告知をするなど、マーケティングの工夫や積極化が求められます。そのために、顧客管理システムの導入、デジタルマーケティングの活用などを図っていくことが有効な対策になると考えられます。
ガソリン等の需要が急減するわけではありませんので、慌てる必要はありませんが、中長期的な視点で抜本的な経営改革にできるだけ早く着手すべきと思われます。