カーボン・ニュートラル政策の影響を正しく認識してください
2021.4.20
80%削減とカーボン・ニュートラルの意味合いは大きく異なる

菅政権が掲げたゼロ・エミッション政策を反映して、次期エネルギー基本計画の二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)の長期削減目標が現行計画の「2050年までに2013年比で80%削減」から「2050年までにカーボン・ニュートラル」に改訂される見込みです。カーボン・ニュートラルとは、二酸化炭素の排出量をネットでゼロにするということですから、吸収したり利用したりして固定化できる量までしか二酸化炭素を排出できなくなるのです。「削減」なら効率の改善や利用の抑制によって対応することができますので、利用機器を使用し続けることができますが、「ゼロ」だと、二酸化炭素を分離・回収して固定化するか、二酸化炭素を排出しない方法で生産した燃料に転換するかの二者択一になります。

 実用化されている技術で、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料をエネルギーとして利用する際に発生する二酸化炭素をすべて分離・回収することはできません。特に、自動車、航空機、家庭用機器などの排ガスから分離・回収するのはとても難しいので、自動車や家庭用の分野は利用するエネルギーそのものを低・脱炭素化する方策が選択される可能性が高いと考えられます。

 自動車の電動化、バイオマス燃料、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を排出しない方法で生産できる水素やアンモニアなどが注目されている背景にはこのような事情があるのです。ポイントになると思われます。


問題が多い現状を維持したいがための主張

 自動車の電動化、さらには電気自動車(EV)の導入・普及の拡大が、欧州や中国を中心に世界各国で推進されています。わが国でも、経済産業省が2030年代に純ガソリン車の新車販売を禁止する方針を公表しました。

 自動車のEV化に対して、自動車業界や石油業界などから、二酸化炭素の排出量の削減につながらないと説明されることが少なくありません。しかし、これらの主張は、EV化の影響を、過去や現時点の技術や条件で評価していたり、発電時の電源構成や二酸化炭素の排出原単位を足元の数値で計算していたりしています。電力業界では発電時の脱炭素化に向けた取り組みが進められていますし、蓄電池などEV化にかかわる技術も急速に進化していますので、現時点の水準で評価することは妥当ではありません。

 EVは、世界各国で導入・普及の拡大に向けた政策支援が行われている影響もあって、性能の向上、コストの低減が急速に進んでおり、充電インフラも拡充されています。わが国では、昨年の新車販売台数全体に占めるEVの比率が0・3%(普通乗用車の0・6%)に過ぎませんが、普及が本格化するのにそれほど時間はかからないと予想されます。

 なお、ハイブリッド車(HV)に外部充電機能を装備すればプラグイン・ハイブリッド車(PHVあるいはPHEV)になり、PHVのハイブリッドシステムを取り外して蓄電池を積み増せばEVになります。コストパフォーマンスの良い蓄電池を安定的に調達できるようになれば、HVの生産構成比が高いトヨタやホンダなどは短期間でEVを量産できるようになると考えられます。

 自動車のEV化は、部品、素材の調達先である関連会社や取引先の経営に深刻なダメージを与え、景気に少なからぬ悪影響を及ぼす可能性がありますので、自動車メーカーだけでなく政府も、安直に推し進めるとは思えませんが、自動車メーカーが国内市場だけを見て経営することはありえませんので、2020年代後半にEVの販売台数が急増し、2030年代半ばに自動車保有台数に占めるEVの構成比が2ケタ台になる可能性は十分あると考えられます。

燃料油の需要がすぐに急減することはないので拙速な対応は禁物だが…

ガソリンの需要を、①自動車の国内保有台数横ばい、②新車の販売構成比7%、③新車販売は、2030年から電動車、2035年からEVとPHVにそれぞれ限定、④ 新車販売に占めるEV の構成比2025年2%、2030年13%、2035年50%、2040年80%、⑤ガソリン新車の平均燃費は廃車の65%の想定で予測すると、ガソリンの国内需要は、2020年代は年率2~4%のペースで減少し、コロナ影響を除いた2021年予想比で2030年は25%減、35年は約半減と算定されます。

 家庭用や業務用の石油暖房・給湯機器も電気製品に置き換えることができます。これらの分野でも、カーボン・ニュートラル政策の一環として、電化シフトが推進される可能性が高く、前述したガソリンと同様に灯油の需要も減少ペースが徐々に拡大していくことになると予想されます。

 石油業界が受ける影響は、短期的には年率2~3%程度でそれほど大きいわけではありません。

 したがって、慌てて拙速な対応をするのは禁物ですが、中長期的には、需給構造の変化を踏まえた抜本的な対策が求められるようになっていくと考えられます。


北海道のガソリン価格予想
4月22日(月)から4月28日(日)まで
変わらず
仕切りにより、値上げも

04月25日付ヘッドライン

■膨らむ期待GW商戦 一気呵成の「挽回」期す
■「失敗は有効解導く手段」 札危協保安研修会で三田薫氏講演
■石販業者への配慮明記 官公需「基本方針」が閣議決定
■保有率77.6%、小幅減少 自工会が乗用車市場動向調査
■好調油販さらなる拡販に照準 フルの強み生かし道エネ環状通SS