コロナ影響以前の水準まで値を戻した原油相場
原油相場は、昨年の年初に1バレル約70ドルで取引されていましたが、昨年3月から4月にかけて急落し4月下旬に一時10ドル台まで低下した後に反発・上昇し、6月初旬現在は70ドル前後とコロナ影響が広がる前とほぼ同じ水準まで値を戻しています。
昨年春の原油相場の急落は、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行、世界各国で行われた感染抑止策、景気の悪化などによって、ジェット燃料油、ガソリン、産業用燃料油などの需要が急減し、需給が崩れたことで起きました。
その後の上昇は、石油輸出国機構(OPEC)加盟13カ国とロシアやメキシコなど非加盟主要産油10カ国で構成されているOPECプラスが昨年5月に史上最大規模の協調減産を実施したこと、原油価格の低下によって採算が悪化した米国のシェールオイルの生産量が減少したこと、コロナ影響が和らいで石油製品の需要が回復したことなどによって原油の需給が引き締まった上に、世界各国で景気対策のために金融緩和政策がとられていることによって株式や他の国際商品と同様に価格が押し上げられたことで起きたと考えられます。
新型コロナと脱炭素化の原油需給への影響
脱炭素化に向けた先進主要国の足並みが揃ったことで、今後、原油の需給はどのように変化し、原油相場はどうなっていくのでしょうか?
まず、短期的には需要へのコロナ影響を見定める必要があります。世界の原油需要は、2019年が約1億BD(日量バレル)、2020年が約9100万BD、2021年は、新興国や発展途上国の内需はコロナ影響以前の水準まで増加していますが、航空燃料の需要がまだ戻っていませんので9600~9700万BD程度、2022年は新興国・発展途上国の需要増と航空燃料需要の回復により1億BD前後まで増加する見通しです。
世界の原油供給量は、今年4月に協調減産幅の縮小に合意したOPECプラスの生産量が5月から7月にかけて200万BD余り拡大し、他産油国の生産量も原油価格の上昇を反映して増加する見通しですが、米国の生産量は1100万BD前後で推移すると予想されます。
OPECプラスの原油生産量は、OPECの報告書によると2018年10月に世界全体の生産量の40数%に相当する4500万BD超でしたが、2017年1月から協調減産を実施し、2021年5月には減産幅を970万BDまで拡大していました(特殊事情で減産状態にあるベネズエラ、リビア、イランは減産の対象外)。
また、米国の原油生産量は、米国エネルギー省の統計によると、2018年1096万BD、2019年1225万BD、2020年1131万BDで、月次のピークは2020年3月の1362万BDでしたが、原油価格の急落を反映して昨年4月から5月にかけて急減し、一時1000万BDを割り込みましたが、昨年半ば以降は1100万BD前後で推移しています。原油価格が1バレル60ドル台なら米国内のほとんどの石油リグ(掘削設備)で採算が確保できますので稼働基数がもっと増えてもおかしくないのですが、今年1月に国内の資源開発を積極的に支援していたトランプ共和党政権から資源開発に否定的なバイデン民主党政権に代わったこと、脱炭素化によって石油開発投資が抑制されてきたことなどが生産量が戻らない理由と考えられます。
需給両面の動きを勘案すると、需要の増加ペースよりOPECプラスの増産ペースの方が早くなる可能性が高い6月~7月は原油価格の上昇が抑えられ、その後は、コロナ影響の緩和等による需要の回復度合い、金融情勢やOPECプラスや米国など主要産油国の生産動向などを映した相場展開になると予想されます。世界的な金融緩和による商品市況の押上げがいつまで続くかにもよりますが、原油価格がこのまま上昇し続ける可能性は低いと思われます。
脱炭素化は原油の需給両面に影響を及ぼす
脱炭素化は、中長期的には石油需要の減少を促し、原油相場の上昇を抑えるようになる可能性がありますが、開発投資の抑制による供給力の低下も見込まれますので、必ずしも原油相場の下げを促すとは限りません。
世界の石油需要が減少傾向に転じるのは2030年以降になると予想されます。
2010年代半ばに過半を占めるようになった新興国・発展途上国の石油需要が、人口の増加、生活水準の向上、社会構造の変化、経済成長などによって増加する見通しだからです。
先進国の石油需要は2010年前後をピークに減少傾向で推移しており、各国で取り組まれている脱炭素化政策の影響によって、今後さらに抑制されるようになると予想されますが、利用機器を置き換えるための期間や代替エネルギーやEVなどのエネルギー利用機器の開発状況等を考慮すると、減少ペースが加速するのは2020年代後半以降になると予想されます。
原油の供給は、脱炭素化の広がりによって石油開発各社の投資が抑制されるようになっていますので、米国など先進諸国や石油メジャーなど先進国系の石油開発会社が主導している開発プロジェクトの生産は抑制されると予想されますが、サウジアラビアをはじめとする中東産油国やロシアなどに十分な増産余力がありますので、需要の増加に見合う供給は確保される見通しです。
原油相場においては、脱炭素化の影響を受けにくく、供給量余力が大きいOPECプラスが、協調体制を維持して需給バランスを適正に保つことができるかどうかがポイントになると考えられます。