経営実態調査を読み取る
2021.5.20
良好に推移している石油販売業の収益環境

 全国石油協会が行っている「石油製品販売業経営実態調査」は、石油販売事業者の経営状態を調査票で収集したデータによって取りまとめた報告書です。調査対象が毎年異なるため対象の違いによる構成差が生じますので、厳密に経年比較することはできませんが、集計事業者数が毎年1000を超えていますので、石油販売業界全体の動きを概ね理解することができます。

 2020年度調査版によると、2019年度決算(2019年4月~2020年3月期決算)について回答が寄せられた1824社中、財務諸表の回答がないか、売上高が500万円未満または500億円超の企業を除いた1014社のうち、営業損益が黒字だった企業は695社(構成比68・5%)で、経常損益が黒字だった企業は824社(同81・3%)でした。1990年代半ば以降、営業損益・経常損益ともに改善傾向で推移しており、2019年度は、経常黒字企業の比率がもっとも高く、営業黒字企業の比率も2015年度に次ぐ2番目でした。

 1SS当たりの石油製品の粗利益額は、1990年代後半から2000年代にかけて減少傾向で推移した後に増加に転じ、2017年度から2019年度にかけて急増し、2019年度は1990年代後半とほぼ同じ水準まで回復しました。石油製品の平均販売量は、レギュラーガソリン以外は減少していますので、この変化は主に石油製品の利ザヤの縮小・拡大を反映していることになります。

 2017年度以降の収益環境の改善はガソリンの利ザヤの拡大によってもたらされたことが分かります。2019年度の利ザヤは、レギュラーガソリンが㍑14・3円で、最も低かった2012年度平均の㍑9・4円と比較すると㍑4・9円拡大し、1997年度平均とほぼ同じ水準まで回復。灯油は㍑16・0円と1997年度以降で最高、軽油も㍑15・6円で2015年度に次ぐ2番目の水準まで拡大していました。元売が再編集約され、ENEOSが主導して石油販売事業の収益環境を改善していると考えられます。

 油外収益は2001年度から2012年度にかけて減少傾向で推移した後、増加傾向に転じています。分野別にみると、自動車用潤滑油の収益がこの間ほぼ一貫して減少傾向にある以外は、近年、収益が拡大傾向で推移していることが分かります。

 これらの事実から、足元において黒字が確保できていない販売事業者は、抜本的な経営改善策を講じる必要に迫られていると考える必要があると思われます。


収益環境の悪化に備える必要はある

 2020年度以降も石油販売業の収益環境は良好に推移しています。新型コロナの感染防止対策の影響を受けてガソリンなどの販売数量が減少した時期がありましたが、石油製品の利ザヤが高水準で維持されているからです。

 ただし、石油販売業の収益環境が今後悪化に向かう可能性はあります。最大の懸念材料は、昨年、打ち出されたゼロ・エミッション(脱炭素化)政策が具体化されることによって、石油製品の販売数量の減少ペースが拡大すると予想されることです。国内需要と国内向け供給能力とのギャップが拡大すると、石油製品の利ザヤも縮小しやすくなりますので、石油製品から得られる粗利益が再び減少に向かう可能性も少なくありません。

 カーケアサービスをはじめとする油外事業も、ゼロ・エミッション政策の一環として自動車の電動化が進められると、ドライバーのSSへの来店頻度が減少したり、自動車メーカーの指定工場以外では点検整備を行うことが難しい車種の構成比が高まったりして、点検整備事業の収益を稼ぎにくくなると予想されます。

 カーケア事業の収益を維持・拡大するためには、車種構成の変化の影響を受けにくいボディケア関連事業を強化したり、積極的にお客様を呼び込むスタイルにマーケティング手法を見直したりすることが重要になると考えられます。
 自動車の車種構成は置き換わる分だけしか変化しませんので、石油製品、カーケアサービスともに、事業環境が短期間で急激に悪化するとは思えませんが、収益が比較的良好な時期に中長期的な視点で事業内容を見直ししていくことが求められるのです。


新規事業は自らの強みを活かせる分野で

 SSにおいて新しい物販やサービス事業に取り組むことも一考の余地があると思われますが、店頭で行えるサービスには限りがありますし、SSで取り組まれている新規事業のほとんどに既存事業者が存在しますので、既存事業者との競合に打ち勝たなければ成果を上げることはできません。石油販売事業者に提案されている新規事業の中にはSSの強みを活かしやすいものとそうではないものが混在していますので、自らの強みを活かして、自然体で取り組める事業であるかどうかを判断基準にされることをお勧めします。


北海道のガソリン価格予想
4月29日(月)から5月5日(日)まで
価格下降
仕切り価格値下げのため

04月30日付掲載予定

■「採算販売」最優先に 北石連・商理事会が総会提出議案承認
■「まずは技術力磨け」 HNCが勝ち組SS応援セミナー
■基本方針への準拠求める 官公需で経産省が都道府県知事に要請
■LINEでショップカード 道エネチャレンジ西野3条SS
■油販増大へ集客策次々 東日本宇佐美セルフ山の手通宮ノ丘SS