世界全体でみると温室効果ガスの削減は進んでおらず、低・脱炭素化対策は強化・前倒しが避けられない
地球環境問題の深刻化、世論の関心の高まり、技術革新等により、世界各国で環境政策が見直されています。地球温暖化を引き起こす原因物質の一つとされる温室効果ガス(GHG)排出量の約9割をエネルギー起源の二酸化炭素が占めていますので、エネルギー部門の二酸化炭素排出量を削減することが国際社会において大きな課題になっています。なお、産業革命以降の地球表面の平均気温とGHGの排出積算量(累計)との間に強い相関関係がみられます。地球温暖化を止めるためには、温室効果ガスの排出量をネットゼロにする必要があるということです。
エネルギー部門の二酸化炭素排出量を削減するための主な対策は省エネ、エネルギーごとの低・脱炭素化、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーや原子力の導入及び利用の拡大、低・脱炭素エネルギーへのシフト、炭素の固定化などです。
OECD諸国では、国や地域ごとに、それぞれの事情を考慮しながら、低・脱炭素化が進められており、二酸化炭素、並びにGHGの排出量は2008年以降、減少傾向で推移しています。
一方、中国をはじめとする新興国・発展途上国では、高い経済成長を背景にGHGの排出量は依然増加傾向にあります。2020年時点で世界の二酸化炭素排出量の三分の二を新興国・発展途上国が占めていますが、その構成比はさらに高まっていくと予想されます。
ところが、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定では、新興国・発展途上国にはGHGの排出量の削減が事実上求められていませんので、先進国主体の取組や枠組みのままでは、世界全体のGHGの排出量を大幅に削減するのは難しいと考えざるを得ません。このままの状況だと、見直されるたびに低・脱炭素化対策の強化、目標時期の前倒しなどが求められるようになると考えられます。
我が国は、自らが、エネルギー政策上の重要課題である安全性、安定供給、環境とのバランスにも考慮しつつ、低・脱炭素化に最大限の取り組みを行うとともに、OECD諸国間で連携を取りながら、中国、インド、ロシアなどのGHG排出大国や排出量の増加が見込まれる新興国・発展途上国の低・脱炭素化を推進していくことと思われます。
脱炭素化を正しく恐れよ
いずれにしても、我が国が低・脱炭素化への取り組みを強化していくことは避けられません。これにより、省エネ、エネルギーの低・脱炭素化、低炭素エネルギーへのシフトが進むと考えられます。
省エネは、利用機器の高効率化、住宅・ビルの高気密・高断熱化等の効果が見込める空調・給湯分野の余地が大きく、高効率機器への更新、技術進化等による効果も見込めます。
低・脱炭素化を進めるための具体策の一つとして、発電部門の低・脱炭素化と電化シフトに取り組む方針が示されていますが、家庭、店舗、事業所などで使われている空調用、給湯用の石油・ガス機器のほとんどが電気製品に交換できます。産業用の加熱機器等にも電気製品に交換できるものがあり、輸送用機器も電動や水素利用等に徐々に置き換わっていく可能性が高いと考えられます。
経済産業省が2030年代に国内で販売される新車をすべて電気自動車(EV)、ハイブリッドカー(HVC)、プラグインハイブリッドカー(PHV)、燃料電池自動車(FCV)などの電動車にする目標を設定する方向で調整中していることが明らかにされています。自動車関連業界などが、関連産業への影響が大きく、現状では必ずしも低炭素化につながらないことなどを理由に、このプランに反対する見解を表明しています。しかし、海外ではEVの開発・普及を支援している国が多く、EVや蓄電池など関連部品の性能向上、コストの低減、充電インフラ拡充などが各国で急速に進展しています。EVは構造がシンプルで、技術革新と市場規模拡大により今後コストパフォーマンスが急速に高まる公算が大きいことなども考慮すると、海外で先行する動きがみられるこの動きを止めることは難しいと考えざるを得ません。
エネルギー需要は、利用機器・システムの普及状況を反映しますので、急激に需要が減少することはありませんが、石油製品の需要は、他エネルギーへのシフト、省エネ等により減少が避けられず、減少ペースが徐々に加速していくと予想されます。ガス需要も他エネルギーからのシフトが見込める産業用を除く分野で省エネと電化シフトにより減少すると見込まれます。電力需要は、当面増加が見込まれますが、電化シフトによる増加分の一部は省エネで減殺されるでしょう。
内需の減少を、輸出入バランスの変化、関連製品へのシフトなどで対応できなくなると、供給能力の余剰で拡大競争の激化、収益性の低下等が起きやすくなります。
再エネビジネスも、既存のエネルギー事業者に加えて、再エネ主力電源化をビジネスチャンスととらえている新規事業者や投資家、低・脱炭素化対策を必要コストの一部と考えているエネルギー需要家などの参入が広がっていますので、競争が激しくなり、収益性は低下すると見込まれます。
エネルギー業界の事業構造は、緩やかに変化し、長期的には全く異なる形になっていくと考えられます。エネルギー事業者は、変化が緩やかなうちに、量に依存しない事業構造への変革に取り組むべきと思われます。