石油製品事業の粗利益額はマージンの拡大で増加
全国石油協会が石油販売事業者の経営状況を調査する目的で毎年行っている「石油製品販売業経営実態調査」によると、2020年度に営業損益が黒字だった石油販売事業者の比率は過去20年で最も高い76%。黒字事業者の比率は2000年代から2010年代半ばにかけて50%前後で推移した後、2010年代後半から上昇していたことが分かります。
分析データをみると、その理由は、1SS当たりの平均粗利益額が2010年代後半以降は改善傾向で推移していたためと考えられます。石油製品事業の粗利益額が2010年代後半以降に増加した主因は石油製品のマージンが改善したからです。
同調査における石油製品の利ザヤの推移をみると、ガソリンの平均マージンは、1990年代半ば以降に急激に縮小し、2010年台前半は㍑10円前後で推移していましたが、2020年には㍑15円強まで拡大し、灯油は2016年から2020年にかけて㍑6円程度、軽油も2018年から2020年にかけて㍑5円程度マージンが拡大しています。
最も利幅が拡大したガソリンは、国内販売量は減少しましたが、SS数の減少ペースの方が早かったため、1SS当たりの平均販売量も増加していました。
利ザヤの拡大によって石油販売事業の収益環境が2010年代後半に改善した背景には、元売の再編が進んで過当競争が沈静化したこと、元売の販売政策が是正され、系列外への安値供給の削減、販売子会社における適正マージンでの販売が徹底されたことなどによると考えられます。
元売大手3社の石油販売事業への取り組み姿勢に変化は見られませんので、燃料油の需要の減少に国内向け供給能力の削減が追いつかなくなって需給バランスが崩れない限り、石油製品の国内事業の収益性が大きく低下するリスクは小さいと考えられます。
低・脱炭素化政策の一環として、電化シフトなど石油の需要減少を促す政策が強化されることが予想されますが、石油利用機器の使用が制限されない限り、短期間で需要が減少することはありませんので、石油精製設備の集約が着実に進められるかどうかが、2030年ごろまでの石油製品事業の収益環境を左右するポイントの一つになると思われます。
油外事業の収益は横ばい傾向で推移
一方、油外事業の粗利益額は2000年代半ばから横ばい傾向で推移しています。点検・整備やモーターオイルなどの消耗品の交換サービスを提供しているSSが減少しており、異業種店との競争が激しくなっている状況下で、1SS当たりの油外事業の粗利益額が減少していないのは、カーケア事業の収益を拡大している石油販売事業者が少なからず存在しているからと考えられます。
SSにおける油外事業の中心になっているカーケア事業の状況をSS事業者にヒアリングすると、モーターオイルなど消耗品の交換による収益は減少しているケースが多く、車検および点検・整備の収益には事業者間でばらつきが見られ、洗車、コーティング、リペアなどボディケア関連事業は収益を大きく伸ばしている事業者が多数いることが分かりました。
他方、一時期多くのSSが取り組んだレンタカー事業は縮小・撤退を余儀なくされたケースが散見されるものの、中古車や新車の販売、カーリースなどの収益化に成功しているケースが大手を中心に見受けられました。
車検、点検・整備、モーターオイルなど消耗品の交換などの収益が減少したり伸び悩んだりしている理由は、これらのサービスを行っているSSの減少、異業種、とりわけカーディーラーが、これらのサービスを一括して提供するメンテナンスパック、ボディやウィンドウのケアなども組み合わせた総合アフターサービスなどに取り組んで、ドライバーの囲い込みを図るようになっていること、自動車の構造が変化していることなどが影響しているのではないかと推察されます。
SSが点検自動車の変化に対応するのは難しいがカーケア事業の収益は拡大できる
現在販売されている自動車は、多数の電子部品と配線によって構成されている電気製品です。経済産業省が、2030年代に純ガソリン車の新車販売を禁止する方針を示していますが、これにより電動車の普及が進み、メーカーから認定された事業者以外が、点検・整備・修理などのサービスを提供することはさらに難しくなると予想されます。
ただし、ボディ、ウィンドウ、室内装備、タイヤ、ホイールなどが大きく変化することはありませんので、これらにかかわるサービスは、将来にわたってSSの収益源になり得ると考えられます。中でも、洗車やボディ・ウィンドウ・ホイールなどのコーティング、塗装、傷・へこみなどのリペアは、サービスの内容や質で差別化を図ったり、付加価値を高めたりできますので、工夫と取り組み次第で、SS事業者が収益を拡大しやすい事業と思われます。
ただし、今後、電動車が普及することで、SSの利用頻度が減少したり利用する必要がなくなったりしていきますので、立地の優位性を活かせるSS店頭での集客に加えて、デジタルマーケティングも含めたより積極的な方法でお客様を呼び集めていく必要があります。
SSの経営改善につながる努力と工夫の余地はまだまだあります。
石油販売事業者は、石油販売事業の収益性が良好で先行投資ができるうちに、将来を見据えた事業構造の変革に取り組む必要があると思われます。