エネルギー資源価格の高騰とその原因
新型コロナウイルス感染症のパンデミックと世界各国が講じた感染抑止策の影響によって経済活動が停滞し、昨年春に下落したエネルギー資源の価格は、昨年4月~6月に安値をつけた後に反発していましたが、今年に入って相次いで急騰しています。
ニューヨーク商品取引所(NYMEX)の期近先物の21年9月の平均価格は、石炭が昨年最安値を記録した5月の4・4倍の1㌧当たり174㌦、天然ガスが同6月の3・0倍の1MMBTU当たり5・1㌦、プロパンガスが同4月の4・0倍の1ガロン当たり1・24㌦、原油は同4月の4・3倍の1バレル当たり71・5㌦へそれぞれ高騰し10月中旬の価格はさらに高くなっています。
エネルギー資源価格が高騰した主な原因は、①新型コロナ影響の緩和によって景気や人流が回復しエネルギー需要が増加してきたこと、②電力需要の回復や発電構成の変化等によって欧州や中国などで発電用燃料需要が急増していること、③エネルギー資源開発の投資が抑制されているため北米のシェールオイル・ガスなどの生産量が回復しておらず急激な需要の回復に供給が追い付かなくなっていること、④事故やテロなどによる生産・供給障害が各所で起きていること、⑤世界的に景気対策として金融緩和政策が講じられているため稼動流動性(金余り)が生じていることなどと考えられます。
資源価格高騰要因の一つは脱炭素化対策の急速な広がり
その背景事情の一つと考えられるのが先進諸国を中心に取り組みが広がっている「脱炭素化」です。脱炭素化は長期的には化石燃料の需要を抑制しますが、すぐに化石燃料の消費量が減少するわけではありません。消費は人口、経済構造、生活水準、エネルギー利用機器の普及・利用状況、景気などによって左右されるからです。
先進国のエネルギー需要は、2007年がピークで、化石燃料の需要は再エネへのシフトによる効果もあり2000年代半ばから減少傾向で推移しています。ところが、新興国・発展途上国のエネルギー及び化石燃料の需要は、人口の増加、社会・生活水準の向上、経済成長などによって増加しており、世界全体の需要も依然増加傾向で推移しています。昨年は、新型コロナ影響で世界全体の需要が減少しましたが、今年の春ごろから前年の実績を上回るようになっており、来年はコロナ影響前の水準を上回るようになると予想されます。
開発部門の投資が抑制されると供給は制約されるようになりますが、脱炭素化がエネルギー各社の開発分野への投資を抑制しています。株主や社外取締役が脱炭素化対策を促したり、機関投資家や金融機関が化石燃料分野への投融資を制限したりしているからです。
脱炭素化に最も鋭敏に反応しているのが機関投資家や金融機関で、化石燃料分野で急速にダイベストメント(ダイベストメントはインベストメントの反意語で投融資を引き上げる行動)が進んでいます。エネルギー分野におけるダイベストメントの対象は、当初、石炭に限られていましたが、石油や天然ガスの開発分野にも広がっています。化石燃料関連の事業を営んでいる会社の株価が低下していることも、経営政策や資金調達に影響を及ぼしています。
今後、これらの動きが強まることこそあれ、弱められることはないと考えられます。価格が上昇すれば、事業採算性が向上しますので投資はある程度回復しますが、世界的な脱炭素化の潮流が化石燃料の開発投資を抑制する方向に働き、需給のミスマッチが起きやすくなると考えられます。
もっとも需給ひっ迫が懸念されるのは電力
特に深刻な状況に置かれつつあるのが電力です。電力は常に同時同量を確保しなければいけないからです。需給バランスが崩れると、周波数や電圧が変動し、変動幅が一定水準を超えると停電を余儀なくされますし、需給がひっ迫すると電力卸取引市場の価格が急騰しやすくなります。
世界各地で風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーの導入が拡大していますが、この影響で、先進各国では、火力発電所が休・廃止されたり、発電用燃料の貯蔵量を削減されたりするケースが増えています。風力、太陽光など自然変動電源による発電電力量は天候の影響を受けて変動します。需要の変動に合わせて発電電力量を調整できる火力の構成比が高ければ、需要の変動に合わせることができますが、自然変動電源の構成比が高くなると、供給力および調整力が不足して、発電・供給量を需要の変動に合わせることが難しくなってしまいます。休止している火力発電所を立ち上げなくてはならなくなると、併せて燃料も緊急に調達しなくてはならなくなります。天然ガスや石炭の価格が急騰している背景にはこのような事情もあるのです。