過去最高利益を更新する企業が少なくない中で赤字企業も続出
21年度決算では、業種・企業によって業績に大きな乖離が生じ、史上最高利益を更新した業種や企業が少なからずあった一方で、業績が悪化した業種や企業も多数見受けられました。
業種別の鉱工業生産指数の推移をみると、21年度は、生産用機械工業、電子部品・デバイス工業などが新型コロナの影響が生じる前の水準まで生産が回復しましたが、世界的な半導体不足の影響もあり、電気機械工業、情報通信機械工業、輸送機械工業、素材各産業などの生産水準は戻っていませんでした。さらに前年から上昇傾向にあった原料や燃料の価格がロシアのウクライナ軍事侵攻の影響などで今年に入って急騰し、エネルギーや物流費が高騰しました。後述するように、電気料金やガス料金はコストを反映する際にタイムラグが生じるため、まだ上昇し続ける見通しです。また、金融政策の違いなどを背景に為替の円安が進み、これが業種や企業間で業績格差が広がる一因になっています。
業種で特に好調が目立ったのは、国際海運業界で、世界的な物流網の混乱を背景にしたコンテナ船等の運賃市況の高騰や円安などによって、海運大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社の連結当期利益の合計は前年の約7倍に急増し、3社ともに過去最高を大幅に更新しました。
通信業界やIT業界も、仕事や生活様式の変化を背景に好業績を確保していました。
製造業は好不調が分かれ、わが国の製造業を代表するトヨタ自動車の21年度決算は、連結営業利益が前年比36%増の2兆9957億円、親会社の所有者に帰属する当期利益が同26%増の2兆8501億円となり、いずれも日本企業の史上最高を更新しました。新型コロナウイルスの感染拡大、半導体不足などの影響によって自動車販売台数は約15%減少し、資材・物流費等も高騰しましたが、生産コストの低減、販売価格の改定、販売費の抑制、金融事業の収益拡大、為替の円安などによって収益体質が改善したからと会社は説明しています。
トヨタに限らず、海外事業の規模が大きい企業の中には円安メリットで好業績を達成した会社が見られましたが、原燃料高や半導体不足の影響で業績が悪化した企業も少なくありませんでした。
石油、ガス、電力で明暗が分かれた21年度の業績
エネルギー業界は、業種によって明暗が分かれました。
石油元売各社はいずれも好決算を発表し、元売大手3社の連結当期利益の合計は前年の約4倍の9555億円、在庫影響を除いた実質的な経常利益の合計も同2倍強の7884億円へ大幅に増加しました。原油など資源価格の上昇に伴って資源開発事業の収益が拡大した上に、タイムラグによって石油製品の国内マージンが拡大し、在庫評価による利益の押し上げなどが生じたからですが、石油製品のマージンが国内・海外ともに高水準で推移していたことから、タイムラグ影響を除いても、石油販売事業者やLPガス事業者の大半が本業で良好な収益を確保していました。
都市ガス各社の業績も回復しました。都市ガス大手の当期純利益は、東京ガスが前年比79%増、大阪ガスが同59%増、東邦ガスが同80%増と、いずれも大幅な増益となりました。
一方、電力は燃料価格の高騰や卸電力取引市場価格の上昇などが経営を圧迫し、旧一般電気事業者(電力会社)は全社が減益あるいは赤字となり、電力10社の当期純利益の合計は970億円の赤字になりました。
新電力も、電力卸し取引市場の価格高騰などの影響で赤字企業が続出し、電力小売事業から撤退する事業者も相次ぎました。
エネルギー各社の業績変動要因は原燃料コスト上昇に伴うタイムラグ
エネルギー業界で業種によって21年度の業績に大きな開きが生じた理由の一つは、原油、石油製品、LNG、LPG、石炭などの価格が上昇する局面でタイミング影響による差損益が生じたからです。
原油、石油製品、LPG、LNGの輸入価格はほぼ連動していますが、LNGの調達量の8割程度を占める長期契約取引の価格は、主に日本の原油輸入価格を数カ月後の価格に反映する価格算定方式を採用していますので、原油スポット価格の変動がLNGの輸入価格に反映されるまでに4~5カ月程度のタイムラグがあります。
原油スポット価格が変動すると、石油製品のスポット(業転)価格はほぼリアルタイムでその動きを追随する傾向が見られます。元売の仕切価格は、前週の石油製品のスポット価格などに基づいて決定され、それが平均数日で小売価格に反映されます。石油精製・元売の原油コストが上昇するのは原油スポット価格が上昇した約1カ月後ですので、原油価格が急騰する局面では石油精製・元売のマージンは拡大し、急落する局面では縮小しやすくなります。これがタイムラグによるマージン影響です。
電力および都市ガスの料金の大半は、燃料費(ガスは原料費)調整制度によって、原油、LNG、LPG、石炭の輸入価格と為替の変動を一定期間後(6月の料金は1月~3月の平均)に自動的に反映する仕組みになっています。この仕組みには数カ月のタイムラグがありますので、今年2月以降の原油価格の高騰がフルに反映されるのは、電気料金は7~8月以降、ガス料金は10月以降になります。このタイムラグが電力および都市ガス各社の業績が20年度から21年度に大幅に変動した主因でした。
そして、今年度は、今後さらに物価を押し上げるエネルギーや原材料のコスト上昇が国内産業の業績に少なからぬ影響を及ぼす年になると予想されます。