石油業界のカーボンニュートラル(CN)ビジョンは実現可能か
2023.4.20
わが国のカーボンニュートラル(CN)政策

 2050年カーボンニュートラル実現に向けたわが国のエネルギー政策は、電力部門で「再エネや原子力などの実用段階にある脱炭素電源を活用して脱炭素化を推進、火力発電で水素・アンモニアの導入、CCSおよびCCUS(CO2の分離・回収、利用および貯留)などのイノベーションを追求」し、非電力部門で「電化が可能な分野は脱炭素化した電力による電化を推進、電化が困難な部門では水素、合成メタン、合成燃料などにより脱炭素化を推進、最終的に炭素の排出が避けられない分野ではDACCS(大気中のCO2を直接回収・貯留)、BECCS(CCS付きバイオエネルギー)、植林などで対応」とされています。

 電力の脱炭素化と、液体および気体燃料のCN化、CCS・CCUSの実装などが、わが国においてエネルギー分野のCNを実現できるかどうかのポイントとされているのです。

石油業界のCNビジョン

 石油精製・元売会社の企業団体である石油連盟は、2020年10月に政府が発表したカーボンニュートラル宣言を踏まえて、2021年3月に「石油業界のカーボンニュートラルに向けたビジョン(目指す姿)」を策定し、さらに2022年12月に革新的技術開発の取り組みの具体化などを踏まえて同ビジョンを改定しました。

 石油業界のCNビジョンのポイントは、事業活動に伴うCO2の排出量の実質ゼロ、すなわちCNを目指すことで、2022年12月改定版では、供給する製品に伴うCNにもチャレンジするとしています。

 省エネや再エネの活用・開発促進といった既存対策の強化に加え、CO2フリー水素の活用等の技術開発による精製プロセスの変革、CCS・CCUSなどのカーボンリサイクルなど、2030年までの「革新的技術開発」と、その後2050年に向けた「社会実装」に業界を挙げてチャレンジするという内容です。

 具体的には、SAF(持続可能な航空燃料)、CO2フリー水素・アンモニア、合成燃料、廃プラリサイクルなどにおける政府のグリーンイノベーション基金事業への参画などによって供給する製品の低炭素化、CO2排出削減を進め、CO2排出削減・吸収源対策として、水素ステーションやEVステーションなどの関連インフラの整備、再生可能エネルギー事業の拡大、廃プラスチックリサイクル技術の開発、石化製品の原料を次世代バイオマスに転換することなどにチャレンジするといった内容です。

 石油精製・元売各社は、すでに前記ビジョンを実現するための革新的技術の開発に着手しており、国内の製油所等で国産合成燃料製造に取り組むとともに、海外で製造された合成燃料を調達して国内に供給することで、早期実用化と社会実装を進める計画を打ち出しています。

 現在の製油所は、原油、コンデンセート、NGL(Natural Gas Liquids)などの化石燃料を精製して、ガソリン、ナフサ、ジェット燃料油、灯油、軽油、重油、LPGなどの燃料や化学製品の原料といった石油製品を生産しています。

 将来の製油所は、既存設備を一部活用しながら必要に応じて製造プロセスの追加・改造などを行うことにより、CO2フリー水素、回収CO2、バイオマス、廃プラスチックスなども原料に加えて、SAF、CO2フリー水素・アンモニア、合成燃料(e─fuel)、バイオマス由来燃料、CO2の原料利用などのCN製品にシフトしていく計画です。


CNビジョンは実現困難だが 取り組まざるを得ない

 前述した石油業界のCN戦略にどの程度実現可能性はあるのでしょうか?

 まず、エネルギーの安定供給および経済性(利用可能な価格並びに事業者の収益性)を確保した上で、CO2排出実質ゼロを実現することは、極めてハードルが高い課題であると思われます。

 掲げられた対策の多くは、技術的にはすでに実用化されていたり、実現可能と思われるものも少なくありませんが、既存エネルギーに対してコストが著しく高く、技術開発、規模の拡大、習熟化などによってコストを低減できる余地が大きいとは思えないからです。

 利用者にコスト上昇分の転嫁を図る仕組みが整えられている空運、コストが高くなっても使用形態から液体燃料を利用せざるを得ない海運や産業機械などの分野を除くと、経済性の面から社会実装を図っていくのは容易ではないと考えられます。

 石油業界の現実的な低・脱炭素化策は、まず既存事業の収益性の維持に努めること、低リスクで脱炭素化に資する再生可能エネルギー事業などを拡大すること、すでに取り組んでいる非エネルギー事業の中で将来性が見込める分野の事業を拡大すること、既存の顧客・設備・インフラ・技術等を活用できる新規事業を開発していくことなどでしょう。

 なお、電化に対応する取り組みは必要と思われますが、電気製品や電気自動車は、メーカーとの業務提携や委託者のブランドとしての生産委託(OEM)などによって調達できますので、専業メーカーに対抗して、自ら製造する必要はないと思われます。


北海道のガソリン価格予想
4月22日(月)から4月28日(日)まで
変わらず
仕切りにより、値上げも

04月20日付ヘッドライン

■広がる困惑、失望感 対量販構図変わらず 札幌市場
■昨年度、減少に転じ17件 危険物取扱者の違反行為
■3月決算組「まずまず」 収益環境の良化が支える
■消費、供給ともに減少 2022年度エネルギー需給実績
■42%が「月に1回以上」 GfKJapanが洗車で調査